「言葉」は消費されない
福田:今日は、広告の未来について伺おうと思ったのですけど、もっと社会的なことですね。広告そのものが。
杉山:そうだね。だけど実は広告って、何よりも経済、テクノロジー、技術、文化と密接に関係があるので。広告を語ることは、世の中を語ることでもあるんだよね。広告の世界をじいっと見つめると、経済、文化、テクノロジー、それらの固まりだから。だから、もちろん矛盾も含めて。
福田:広告は世界を表現するツールである、という感覚を持っているメディア業界人が少ないですよね。だから僕は本というメディアにこだわるんですよ。本は、圧倒的にカバーできる人数が少ないじゃないですか。だけど、僕はそれはいいと思っています。5000人なら5000人、2時間集中して読んでくれたら、大きく変わる力の原動力になると思っています。やっぱりみんな、言葉が欲しいんじゃないでしょうか。
杉山:ああ、言葉が欲しいんだよね。
福田:言葉が欲しいんですよ。やはりYouTubeって、自分でやっていてなんですけども、消費されちゃう。
杉山:そうだね。やはり人は、言葉がないと動けないんだよね。
福田:これが最大の発明だったと思います。言葉以外、人間とほかの動物との違いを説明する術は、僕はないと思う。
杉山:言葉によって、人は振り回されたり、ね(笑)
福田:思い悩んだり(笑)
杉山:そう。まあ、全部が妄想なんだけどさ、この妄想で振り回されるところが我々の面白いところであり、物悲しいところでもあります(笑)
福田:言ってること、矛盾しているようですけど、やはり数字なんかで悩んでいる営業マンは、会社辞めちゃえばその数字関係ないですからね(笑)
杉山:(笑)そうなんだよ。この本の一番最初に、オードリー・タンの言葉を引用しているんですけどね。
「人の価値は財産ではなく、他人と分かちあったものの量」
― オードリー・タン。
オードリー・タンは、すごい正しいことも言うんだけども、片方でレナード・コーエン(*6)が大好きで、もうめちゃくちゃ聞きまくってることが分かるんだよね。この両方を分かっているところが好きなんだ。
福田:バランスが面白いですね。
杉山:女ったらしで、世界一のダンディの世界も分かっている。つまり、綺麗事ばっかり言ってる人は、なんとなく信用ならないじゃない?
福田:もっと複雑で、猥雑であってほしいですよね。
杉山:多層的でね。なんかちょっといつもどっか裏切るなみたいな。それがないと味わいがないですよ。
福田:広告表現のヒントって、そういうところにもあるのかもしれないですね。
杉山:そうですね。やっぱり、人の微妙な心の機微を捕まえるのが広告コミュニケーションだからさ。
(*6)カナダのシンガーソングライター、詩人、小説家。80歳を超えた後もアルバムをリリースするなど、精力的に活動した。