記憶は、体の外に出すな
福田:ご著書には、アップルは市場調査をしないことについても触れておられましたけれど、「人々は自分が本当に欲しいものをわかっていない」というのは、本当にそうですよね。
杉山:そう。アップルが一切市場調査をしないのは、客は欲しい物が分かっていないから。それは形式知と暗黙知の世界だと思うんだけど、暗黙知、つまり人間の欲望は無意識だから、その80%ぐらい自分では気付いていないということなんですけど。
福田:自分のことは自分がいちばん知らない。すごく面白いですね。それを知るには、いいメンターが必要になりますね。
杉山:そう。そのとおりだよね。
福田:いいメンターを見つけるために、いろんなメディアも見ますけども、やっぱり読書って欠かせないんですよね。
杉山:欠かせない。
福田:なぜ読書が欠かせないのか、ずっと疑問だったんですけど、ブックディレクターの幅允孝さんと対談させていただいた時に、謎が解けました。幅さんいわく、「本って、めちゃくちゃ現代には合わないメディアなんです。なぜなら読書という行為はシェアができないから。孤独を強いるものなんです」と。YouTubeで本の解説ってしてもらえるから、それ見ればいいと思うかもしれないんですけど、あんまり頭に入らないんですよね、僕なんかは。だから繰り返しになるんですけど、やっぱり本っていいなと思って。
杉山:本はいいよね。だから記憶っていうのは、体の外に出しちゃダメなんだよ。体の内側に入れていかないと。「メモリーは体の外に出すな」って、よく若い社員には言ってるんだけど。その記憶が次第に熟成されて、あらたなアイデアにつながる。つまりアイディアって、外からやってくるものじゃなくて、自分の内側から浮かび上がってくるものなんだよね。気づいていないだけで、発想の源はすべて、自分のなかにある。
福田:いやあ、杉山さんの会社にいると、こんな大切なことを毎日教わるんですね。本当に羨ましいです。杉山さんのご著書はずっと拝読していますが、この『広告の仕事~広告と社会、希望について~』は、特に最高でした。広告の枠を超えたことが書かれてあるので。
杉山:ありがとうございます。
福田:冒頭にもいいましたけども、スタートアップの人にはぜひ読んでほしい。そして広告も、本来のクリエイティブの力を巻き返す年になっていくといいなと思います。
杉山:それはいいね。そしてぜひ、プロボノを楽しんでほしいです。
福田:そうですね。僕の時代は「石の上にも三年」みたいなことを先輩に散々言われたんですけど、「三年」になんの根拠あったんだろうなと思いますね。
杉山:(笑)
福田:いやなら三日で辞めればいいじゃんと言ってますけどね。
杉山:これ以上いくともっと過激なこと言いそうだから、この辺でやめておきます(笑) 福田君がいるとさ。なんか場が躁状態になって楽しいよね。
福田:そうですか(笑)でも、今日は素晴らしいお話をありがとうございました。またぜひ、お話伺いたいと思います。
杉山:こちらこそ。ありがとうございました。
(了)
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