「毛穴を開く」教育
福田:面白いですね。パットを競い合っている場合じゃないですね(笑)そういう総合的な視座といいますか…。野中さんのような好奇心だとか、突き抜けたエネルギーがないと、ただふわふわと生きているだけになっちゃいますよね。
野中:とりわけ日本の教育は、子どもに対して、「勉強しろ」とか「知っていることが力になる」とか、上っ面だけで言う大人が多いと思うんです。 子どもに空を見上げさせて「あれなぁに? 星が見えるでしょう?」と話しかけてみる。すごく面白いんです。それは大学1年生の時、1970年代の体験があるからなんですが。 当時は、親の転勤でニューヨーク、ワシントン、その近辺で暮らしているけれども、商社や銀行での5年間の駐在期間を終えたら帰国して、中学受験をするような子どもたちがいっぱいいたんですね。それで母校の上智大学の神父様が、ニューヨークの北のほうにあるキャッツキル山脈エリアに、「キャンプふるさと」という施設を造られたんです。
福田:ウッドストックの方ですね。
野中:そうです。かつてユダヤ人が建てた古い別荘地を買い取って、幼稚園生から中学生まで、日本人駐在員の子どもたちを集めて、夏の間預かるというところ。それで上智の学生を集めて、カウンセラーとして派遣して、塾の宿題とか受験の勉強とか、水泳とか、釣りとか、バスケットとか…なんでも一緒にやろう!みたいな。
福田:面白いですね。「全力遊び」ができる場所ですね。
野中:そう!私もカウンセラーとしてひと夏働いていた時に、子どもたちは東京では、空を見る機会が本当になかったんだなと実感しました。キャッツキルのキャンプで満天の星を見て、じんましんが出る子がいたくらいなんですよ。
福田:ええ? びっくりしすぎて、ですか?
野中:たらことか、「ブツブツしているもの」を見るのがダメな子がたまにいるじゃないですか。それで、無数の星を初めて見たものだから、「空にたらこだらけ!」。ところが1カ月くらいいる間に、その子がどんどん開いていくんです。私が「こっちから星を見ているけど、じつはあっちからも見られているのかもしれないよ~」とか言いながら、「これだけ星があるんだから、どっかには生きてるモニョモニョくんがいるかもね~」なんて、そんな話を真夜中じゅう、寝袋を持ってきて、広い芝地で寝転がって話すんです。
福田:大事ですね。それ、今必要なことじゃないですか。
野中:毛穴を開くという感覚が必要ですね。地面のふところで育んでもらってなんぼのさかな、なんぼのおさるさん、なんぼの人類。みんな同じだね、と話すんです。深呼吸をさせて、「そこで止めて! 止めて! 吐いちゃ駄目!」と言うと、隣から「ふぅー」とか聞こえてくるわけです。「ね、息って、出さないと駄目でしょ?」「でも今、ミノルくんの今吐いた息はね、隣にいるマサコちゃんがまた吸って、深呼吸したよ」速攻で、マサコちゃんは「気持ち悪いー!」とか言うんですけど(笑)。「いやいや、空気はつながっているから。東京にいるおばあちゃんのため息も入っているよ」と言うと、「おばあちゃんに会いたいー」って、息をスゥーって、一生懸命吸おうとする。これがいのち。だから全部、つながってるんだよと。
福田:素晴らしい。以前、聞いた話で、とある小学校の教頭が考案した授業の話を思い出しました。 最近の子どもは、親や学校で「知らない人と話しちゃ駄目」と言われてしまうから、知らない人と話す機会が減っているという実態を知って、近所のいろんな職業の人たちを授業に呼んで、話をしてもらったそうなんです。で、知らない職業の知らない大人が、毎月来るわけですよ。その時の子どもたちの質問が、怖いけど微笑ましかったのが、「月給いくらですか?」って。質問するのも自由な発想を持つ素養を鍛える必要がありそうです。
野中:その子の家庭でどういうコミュニケーションが行われているのかが、分かりますよね(笑)