ICT時代の教育は、「個と共同」の融合がキーワード
福田:技術は日進月歩で、新しいものが開発されると、それを上書きしながらさらに人類がどんどん長生きするように、健康になるように発展していきますが、教育においてもスキルは進化しているのでしょうか。
漆:していると思います。たとえば、今キーワードになっている「アクティブ・ラーニング」という教育手法がありまして。知識そのものはググってしまえばいいという背景を考えると、これからは自分で問題を発見して、解決の一歩が踏めるようにまわりを巻き込んでいく力が必要になっていきます。さきほどの、一斉に知識を教えるというこれまでの授業から、主体的な学びに変えていくという動きですね。
福田:サルマン・カーン氏が2006年にはじめた非営利の教育ウェブサイト「カーンアカデミー」は、一人一人の授業の進め方をビッグデータで管理してますよね。「この人は42問目で間違えたから、もう一回繰り返して、同じような問題を丁寧にやらせる」というようなことで、全体の能力が上がったと。ともするとジョージ・オーウェル的な世界にも聞こえるんですが、そうじゃない。一人一人の能力に合わせてカスタマイズしているから、落ちこぼれない。日本も一斉授業からもう少しパーソナライズ化というか、個人個人で見てもらえるようになるといいですよね。
漆:そういう個別学習と共同学習を組み合わせることが、まさに教育の重要なキーワードになってきていると思います。オランダで見てきた学校は、5歳ぐらいから全員がタブレットをもって、授業も大学のように、みんな自分のオリジナルの時間割があるんですよ。なおかつ家庭でも学習できるので、バカンスの時期も自分で決めることができる。つまり、学校という場所と時間からフリーになって、学ぶことができるんですね。しかも、学習者が間違えたら各自に合わせて次の問題が来るだけでなく、どこでどういう呼びかけや問題を出すとやる気になるかまでをまさにビッグデータ化していて、瞬時にフィードバックしているらしくて。
福田:そのシステム、とてもいいですね。僕自身のことを言うと、中高時代は自分の能力以上の進学校に入ってしまったので、試験前になると友達に、「何が分からないのか分からないから、ちょっと教えてくれよ」って聞くんですよ。でも、「何が分かんないか分かんないやつに、教えられないよ」って返されて、落ちこぼれていったわけです。そこのモチベーションの部分を、プロの施策でフォローしてもらえていたら、もうちょっと能動的に勉強できたかもしれない(笑)
漆:技術が進化すると、じゃあ学校は要らないのでは、という話にもなりますが、そうではなくて。習熟度が遅い子は遅い子、早い子は早い子のテンポで、また、各自の興味関心に応じて勉強して、今度はそれを学校に持ち寄って、みんなで話し合いをするんですよ。
福田:会社経営と一緒ですね。今、在宅勤務の流れがあって、Yahoo!のアメリカはそれをやめましたけども、「技術者はアウトプットがあればいいんじゃないの」っていう考え方で在宅勤務を良しとしていた。あれはやっぱり間違っている気がします。情報量という意味では、その時間、その場所でライブ的に会わなきゃ駄目なんじゃないかと思うんですけども。教育って、やっぱりそういう場ですよね。
漆:そうですよね。子どもたちの将来のことを考えたら、チームで仕事をしていく場面が多いのだから、みんなで話し合うことによって、「自分はこう思っていたけど、全然違う見方があったね」って、発展していく場を経験させることが大切なのかなと。新しいアイディアも出てくるし、「個別と共同の融合」という教育が、これからのインターネット社会では必要なことじゃないかなと思います。