人に会い、聞き続けることで浮かび上がるフック
漆:最後に、私からも福田さんに質問させてください。福田さんは、何十年も新しいものを作り続けておられますよね。つねに最先端に居続けることがなぜできるんでしょうか。
福田:僕の場合は、もともと新しいもの好きなんですよ。そういう体質の上に、娯楽産業の仕事として、事業開発にかかわらせてもらいました。新しいものが一般化すると自分の任務はおしまいです。トーマス・マンが「あの得体の知れない恐ろしい人を殺す怪物に『ライオン』という名前を命名したら、それは単なる『ライオン』になった」という名言があります。
わたしが やってる仕事も同じで、得体の知れないものを みんなに分かりやすく理解してもらう仕事なんだと思います。その情熱は、好奇心の強さからくるものとしか説明しようがないのですね。
漆:なるほど。
福田:スマホで撮った写真を組み合わせて、映像にしてくれる「MixChannel」というサイトの動画チャンネルがあって、中学生の間ですごく流行っているんですね。800万人ダウンロードしていて、ユーザーがほとんど中学生です。でもなぜか、キスしている写真ばっかりなんです。なぜそういうことが流行るのか、さっぱりわからないじゃないですか。そうすると、その会社の社長のところに「なぜこのサービス始めたのか」って、とにかく聞きに行く。それを、僕はもう30年繰り返しているんですよ。新しいムーブメントが起きるとなぜそれが起きるのか、「なぜなぜ? どうしてどうして」少年となって聞きにいく。それぞれのサービスのメカニズムは難しいものも多いのですが、本質的なものってそんなに変わらないんです。
たとえば2005年のケータイ小説ブームも、最初はよくわからなかったけれど、僕の世代で言うと、山口百恵の『赤いシリーズ』やその後のマンガの『愛と誠』も、メデイアは違えども、高校生が初めて恋をしたり、難病で死と向き合ったり、愛の部分は同じなんですよね。だからどんなに新しいものが出てきても、ベースにあるのは人間の感情、つまり喜怒哀楽なのかなと。新規事業をずっと続けてこられたのも、そこが面白くてやっていることがあります。新しいムーブメントのしっぽを掴んで、全然知らない人に翻訳するというのが自分の仕事だと思っています。
漆:私がいちばん気になるのは、どうしたら、福田さんのような方が育つのかというところなんですよ。どんな体験を積むと、社会で活躍する人材に育つのか。生徒にフィードバック出来るものは何か、そこがすごく気になります。
福田:まず幼少期の家庭環境は、両親に怒られたことがない(笑)また、父親が何でも解説してくれる人だったので、知識欲が身に付いた、というのはありますね。
また、僕自身の性格は天邪鬼で、みんなが常識と思っていることに疑問を持ってしまう。
よく言うと、複眼的に物事をみる癖がある。
先日、静岡県の魅力を探るパネルディスカッションのメンバーに呼んでいただいたんですね。会場には地元の方が300人ぐらいいらっしゃいました。
わたしのプレゼンは、「“静岡県”でググった画像をお見せます」と言ってグーグルの検索結果をみんなに見せました。富士山とミカンとお茶の画像が多数でした。「ということは、ネットから見た静岡はこういう感じですが、でも富士山は、静岡県のものなんですか?」と聞くと市長さんが、「違います、山梨からも入れます」と。「そうですね。でも仮に、静岡のブランディングでは、富士山は静岡県のものと言ったほうが好奇心がわきますよね。さらに、山梨県から怒られるかもしれないけども、静岡県側から富士山に入ると、ごみが一つもなくて心地のいい店があって……となれば、これはもう“富士山=静岡県のもの”という切り口でPRしてもいいんじゃないですか」と。
漆:面白い!
福田:そうしたら、すごく盛り上がったんです。その例でいうと、静岡県の人も、じつは静岡県の本当のよさをあまりよくわかっていないことになる。それをこちらが理屈にして翻訳をして、いいクリエーティブを提供するだけで、新しい静岡県の魅力がつくられる。
だから僕の仕事は、ある世の中の事象をかねくれまわして、みんなに疑問をなげかけることなんですよ、僕の仕事のほとんどは、人に会う時間に割いてます。自分が興味のある人に会うことで、アイデアやモノの見方が多様化していくものと信じています。
漆:福田さんは、人の心の仕組みを読み取る力があるんですね。「なぜなぜ」とたくさん質問したとしても、スルーしちゃう人もいるわけですよね。でもそこを引っ掛けて、もちかえって編集されているわけですよね。その頭の中をのぞいてみたいです。
福田:たいした頭じゃないです(笑)。何か疑問に思うのと、答えている人が、答え以上のことを言ってるんですよ。だから後で、腑に落ちないことって、すごく多いんですよね。でも、「AかBか」と質問したときに、「A」と答えたけど、そのAという答え方が、A以上のことを言っていることがあるんです。きっとそこには、その人のこだわりなり、知見があるんだろうと思って、さらに聞くんですよ。すると、本当にその人が答えたかった真意みたいなことが浮かび上がってくるんですね。
最後は期せずして、わたしの話になってしまいました(笑)
本日は、貴重なお話ありがとうございました。
漆:こちらこそ、ありがとうごさぞいました。
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大胆なネット活用で、新しい教育をつくる【前編】