近藤健祐 × 福田淳 対談 意外と知らないキャラビジネス考【中編】

15.限定的かつ濃いコミュニティの中にキャラクターを投下する

福田:今、スマホでのプラットフォーム争いは、シェアからスモールコミュニティというか、チャットアプリケーションのほうに傾いていると思うんです。今でも日本ではTwitterで自分のフォロワー全部にシェアされることもありますが、アメリカの大手ウェブのニュース記事は、ソーシャルボタンの中に「What's Up」(チャットアプリ)が付いてるんですよ。バズフィードの調査だと、一番人気があった記事の流通経路を調べていったら、35パーセントがその記事を「What's Up」にシェアしているんです。それぐらい、スモールコミュニティ(個人 対 個人)のほうに流通経路が変わりつつある。それに気が付いたのが、Facebookだと思ってるんですよね。というのも、Facebookはこの春、Messengerをポータル化させて、CNNの企業ページと友達になったら、Messenger経由で毎日ニュースが送られてくるサービスをアメリカ国内だけで始めているんです。で、この発想のもとになってるのは、LINEだと思うんですよ。4年ぐらい前にシリコンバレーのFacebook社でLINE見せても、「アジアっぽいよね」とか「アジアだから人気なんでしょ」って言うわけですよ。確かにLINEだけではく、「カカオトーク」も「WeChat」もアジアなんだけど、例えば、ヨーロッパで流行っているViber(バイバー)も、『スタートレック』のスタンプ提供してます。先日、安倍首相が訪米した際のオバマ大統領の演説の中で、日本から米国で流行ってるものとして「柔道、漫画、絵文字だ」って言うぐらいキャラクターが浸透してます。となると、このスタンプ文化って、アメリカにも根付くはずですよね。LINE自体が流行るかどうかわかりませんけど、LINEの持ってるエッセンスは、「What's Up」とか「Facebook Messenger」に受け継がれていくんじゃないかなって気がしているんです。
そういうふうにスモールコミュニティのメディアを使って、ヒットするのも最初は非常に小さなコミュニティ。さっき出た70パーセント寡占化した国内マーケットの閉塞感と、一方ではフリーミアムで広がった世界、特にアジアをターゲットとしたようなマーケット、その両方を相手にするセンスがある人が生き延びる。僕のこれ、感覚ですけど、より消費の足が速くなってるんで、限定的かつ濃いコミュニティの中にそのキャラクターを投下していかなきゃいけないというか。

近藤:そうですね。

福田:そのコミュニティだけが分かるような、なんかあるヒッピーっていうか、トライブ(族)っていうか。

16.WeChatはLINEのクリエーターズマーケットは全部チェックしてる

福田:今、ベトナムでZaloっていうチャットアプリが急成長して、4000万人ぐらい利用しているらしいです。LINEと同じようなサービスなんですけど・・・。

近藤:Zalo。

福田:もともとWeChatのゲームのプラットフォームやってた人が立ち上げたベンチャーで、今1200人ぐらいの従業員を抱えて、ベトナムで一番勢いがすごいんです。インタビュー見たら、その社長、まだ30ぐらいの若いゲーマーみたいな青年なんですよ。 こんな感じで、世界中のユーザーが使うチャットアプリって各国に1サービスですよね。2つと存在できないんです。過去、日本でもYahoo!とかがカカオと組んLINEに挑戦しましたけど、駄目だったじゃないですか。日本だと、やっぱりLINEというプラットフォームが一番になります。アジアの他の国だったら、Facebookのチャットアプリを使った、新しいキャラクター・マーチャンダイジングを提供できるかもしれないと思ってます。

17.日本はメモ。アメリカはグリーティングカード。

近藤:今、文房具、特にいわゆるファンシー文具が、売れなくなってきているのですが、その原因は、これ私の仮説なんですけど、女の子って小中高ぐらいのときに必ずキャラクターのメモに、小さな絵を描いてあげるじゃないですか、それがLINEに取って変わりつつあるんだ思うんですよ。

福田:なるほど。

近藤:LINEは絵が付いたメッセージなんですよ。もともと日本にはメッセージに絵を付ける文化があったんですね。それがLINEになったと考えています。

福田:面白いな。

近藤:で、他の国って、メッセージに絵を付けて渡すカルチャーがないんですよ。だから、初めLINEが普及したのは日本だけだったんです。その結果として、以前より文房具が売れなくなってきてる。

福田:なるほどね。

近藤:一方、アメリカは、グリーティングカルチャーなんです。ホールマークとか、『Care Bear』をやっているアメリカングリーティングスっていうのは、パーティーとかいわゆるソーシャルエクスプレッション・・・。コミュニケーションのベースがカードなんですよ。

福田:もっとちゃんとしてるんだ。

近藤:そうですね、ちゃんとしいます。Messengerカルチャーじゃないですよ。なんかチョコチョコッとLINEで伝えるなんてあり得ない・・・。

福田:面白いな。

近藤:だからアメリカングリーティングスは今、Eグリーティング事業部がすごく伸びてるんですね。カード自体の演出がすごいんですよ。デジタルとは言え、レター(文章)がしっかり読めるきちっとしたグリーティングカードなんですよね。

福田:スマホでちゃんとそういうプラットフォーム作ったらいけるかもしれませんね。

近藤:私、アメリカでLINEが普及しないのって、絶対、それも理由の一つだと思っているんです。

福田:アメリカでそういうプラットフォーム、一緒にやりません?

近藤:いいですね。アメリカのカード会社はそこに、人材を投下していて、グリーティングカードの作り方が面白いんです。コピーライター、キャラクターデザイン、グラフィックデザイナー以外に、もう一人、演出を考える人がいるんですよ。

福田:でしょうね。

近藤:ビーズとか、なんか女の子好きな物とか、そうすると、そのパーツ屋さんみたいなのが社内にあって、その人に「こういうパーツない?」って言うと、アレンジしてくれる。

福田:面白いな。

近藤:カード会社と付き合っていますが、逆に彼らも「なんでLINEでうちのキャラクターはヒットしないんだ?」みたいな。「LINEっていうのは、絵手紙なんだ」と説明しています。

18.アメリカはワオカルチャー。サプライズがないと!

福田:『Care Bear』をやっているアメリカングリーティングスって、どこにあるんですか。

近藤:オハイオのクリーブランドなんです。ニューヨークとかの新しいカルチャーを採り入れる人たちじゃないんですよ。

福田:スナップチャット世代ではないんですね。

近藤:古くからあるアメリカのカルチャーを支えています。クリーブランドに2000人ぐらいいたと思います。

福田:面白いな。なんかそのセンス、ビジネス化できそうですけどね。

近藤:あとアメリカってサプライズビジネスだと思うんですね。メール(LINE?)にサプライズがないんですよ、恐らく。

福田:日常でプッと、キャラクター付いててもね。何なんだと。

近藤:付いてピューッと来ても、なんかなって、こうワオカルチャー(Wow culture)なんですよ。なのに、Messengerにはそのワオカルチャーがないんです。ワオカルチャーが付いた、Messengerアプリみたいなの出てきたら、すごいかもしれないです、アメリカ。

福田:なるほど。

近藤:「おお~!」みたいな驚きが必要だと・・。

福田:やっぱり過去の流れからずっとマーケット見てるんで、ヒット商品かどうかは分からなくても、ある程度、「これは当たる」「当たらない」は見えてきますよね。

近藤:そうですね。

福田:地域の違いとか人の好みだとか。

近藤:コミュニケーションのベースがデジタルに代わっていってるだけなんですよね。