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「アートを通じたファンドレイジングの可能性」世界ポリオデー・アートフォーラム 2016 (Art Forum 2016 in World Polio Day) Talked.jp

東日本震災の日の晩に iモードの待受で支援するアイディアが閃いた!

福田:次の事例はちょっと古いんですけれども、震災があったのが2011年3月11日ですよね。この頃ってまだスマホもクラウドファンディングもなくて、ガラケーもプリミティブなもんで、待受画像とか、今みたいなゴージャスな表現できなかったんですよ。ただ、iモードが普及してましたので、待受を1個ダウンロードしたら100円っていう課金ができたんですよ。震災の日の晩に、僕は突然「少額課金のシステムあるじゃないか」って思いついて、あれが金曜日でしたから、土日で作り上げて、この「Save mind, 100 Creations」っていうサイトを作ったんですよ。この間お亡くなりになりましたけれども、水木しげる先生など有名な漫画家から、現代アーティストまで、いろんな方に待受のデザインをお願いしました。100日間ですからね。100人アーティスト知らないとできないんです。最初7人ぐらいに声かけて、それからも途切れないようにやんなきゃいけないんで、震災後100日間は死ぬ思いでした。(笑)

坂之上:やると先に決めたんですか?

福田:タイトルから決めましたよ、なんか100って切りがいいじゃないですか。1000はさすがに無理かなあ、でも、10じゃしょぼいなあと思って・・・。

坂之上:震災の夜に決めて。

福田:決めて。

坂之上:これは寄付で、ドコモと相談して?

福田:そうです。で、次の日から始めたんですよね。クラウドファンディング出たとき、「真似された」って思いましたもんね。

坂之上:寄付としてやったんですか。

福田:もちろん、手取りの全額寄付です。ドコモは11パーセント手数料取ったので、残りの89パーセントを全額寄付しました。僕は絶対全額寄付しかやらないんですよ。途中で怪しい何か抜き取っているって思われるの嫌なんで。決めたら寄付ですよ。

スマホで少額課金し、収益はNPOへ

福田:これで図に乗りまして、その後、たまたま発起人の一人になって、児童擁護施設で暮らす子どもを支援する「タイガーマスク基金」っていうのをつくっちゃったんですよ。『巨人の星』とか『あしたのジョー』で一世を風靡した原作の梶原一騎先生の奥さまである高森敦子さんから、「私が死んだら『タイガーマスク』も『巨人の星』『あしたのジョー』もパブリックドメイン、つまり公的に勝手に使っていいことにして構わない」って言われたときに、「何をおっしゃる。こういう文化遺産はちゃんとお金にしなきゃ駄目です」って返したんですね。「あら、じゃあ、どうしましょう」って相談を受けていたときに、年末に突然、ある群馬の児童施設の前に新品のランドセルが置いてあったということがあったんですよ。

坂之上:あった。

福田:送り主は「伊達直人」って名乗っていたんです。良いことを匿名でする人って、昔は「月光仮面」って書いたのに、時代は進化しましたよね。今は、『タイガーマスク』になった。恐らく僕と同い年ぐらいの歳で、パチンコで稼いだ人なんですよ。だから、匿名なんです。その人のこと、後で分かったんで、本当いい人でね。「パチンコで稼いだお金だから、名乗るものなあ」と伊達直人にしたそうです。これがきっかけで「タイガーマスク基金」をつくろうという流れになりました。うちの会社でLINEスタンプ(120円)を作りました。それを買ってもらって、収益の全額タイガーマスク基金に寄付することにしました、今も継続してやってますので、まだの方はLINEの検索で『タイガーマスク』と入れてみてください。半期に一度、収益を基金に振り込んでますのでね。

支援とは直接ファンディングだけにあらず。 アートを通じて誰かを助けられたら・・

福田:てなことで、大体事例を終えたんですけれども、いかがだったでしょうか。
僕は30年間エンターテイメントの仕事しかしてませんから、「アートとか娯楽を通じて世の中をよくしよう」と言われても、実はやり方をよく知らないんです。ただ、もともとそういう人を楽しませるためにエンタメ業界に入ったのに、大人になってくるとそうじゃないような話がおおいんです。
洋子さんとの関係も大きかったと思います。渋谷のガングロギャルが突然モザンビークに行って人助けをする。そんなことあるのかと。「一体何があったんだ? 失恋でもしたのかなあ」とかね。
 そういうベタなところから入って、問題意識を持って、きょうこのステージに呼んでいただいている。自分にはその価値は全くないと思っていましたけど、もしかしたら自分のエンターテイメントのアイデアが少しは社会貢献に結びついてるのかなあと思いたいです。
震災の直後、ミュージシャンが被災地に行って「みんなが家を片付けてるところに、ジャカジャカ音楽流されたってたまんない」って言われたりしていましたよね。僕もおっしゃる通りだと思うんです。ただ、信念というほどでもないんですけど、クリエイション、クリエイティブの力って大きいとも思うんです。エンターテイメントなしにアートなしに人は生きていけないんですよ。だから今後もこういったプログラムをやっていきたい。皆さんもそういうことに多少インスパイアされて、協力していただけると楽しいかなあというふうに思います。

坂之上:とても、共感するお話、ありがとうございました。

B-:すごいイノベーティブというか、チャレンジだと思うんですけれども、いろいろアイデアを持たれてやっていく中で、今までで本一番大変だったことがあればっていうのと、それをどうやって克服したかというか、乗り越えたかっていうのを教えてください。

福田:結局、僕らが暮らしてる社会ってすごく狭いんですよ。ITってはやりの職種で、なんかヒットしたらモノマネばっかりして、命短いんですよ。そういう生き馬の目を抜くような業界にいて、中期的、長期的な視点で人様のお役に立つことをさせてもらおうと考えてる時に、「結局はお金で解決するのかな」「でも、お金以外で解決できる発想を誰も持っていないっていうのはどういうことなんだろう」って自問自答することになるんです。
 モザンビークに10万円送ったとして、日本の価値から言ったらすごいかもしれませんけど、それでいいことをやってる気分になってるのがおかしいのかなと思い始めたんですね。 僕、映画会社いましたから、100億円のお金をかけて『ゴースト・バスターズ』作って300億円もうかった。この場合はこれだけ幸せになった人がいたんだって、数を示されるだけでも「満足だなあ」って簡単に理解できたんですね。だけど社会貢献って幾らお金を寄付しても、それを成果として見せられないから「意味があることだった」っていう実感が全く持てない。だから、ご質問の「どうやって克服されたか?」にお答えするなら、全く克服できてないと思うんですよ。
 今回のテーマのポリオ撲滅っていうことで言うと、それを撲滅させるだけでなく、その後に求められる人間らしさとか、潤いだとか、やっぱりそういうところまで提供していかなきゃいけない。となると、これは非常に終わりのない作業というか、何か単年主義的なことでできることでもないんですよね。むしろそういう主体が企業から個人に移っていかなきゃいけないんです。今は、会社でやってるんですけれども、そこにちょっと矛盾を感じてるんですよね。
 だから、今もそれにあらがってるっていうか、どうやったらそれ解決するのかなって模索していますが、そもそも僕は単純だから、エネルギーと分量で次のカーブが見えるかもしれないって考えてます。だから何か戦略があってそれに対してやってるんじゃなくて、脊髄反射的にやってるうちに、きょうもこういう機会を頂戴して皆さんとであえる。「あんた、こんなところが抜け落ちてるわよ」なんて後々でも構いませんからご指摘いただければ、ハッと気付くこといっぱいあると思っているんです。

坂之上:ありがとうございます。私がこういう会に参加するのが、好きなのは、いい人に必ず出会えるから。きょうも、ここに70人か80人の方が集まってくださって、あしたから急によくなるわけじゃないですけど、それでもいい出会いがあったり、感動したり、結局、そういうことが人生の中ですごく楽しいかなって思うんです。自己満足的なことなんですけど、その積み重ね積み重ねで最後にポリオがこの世界からなくなったら、「本当にちょびっとだけだけど、みんなが頑張ったからだよね」「撲滅するための活動にちょっと参加したよね」っていうのがすごい素敵だなって思いますよね。

福田:ワクチンがあって、人間が考えて作ったことじゃないですか。それで疫病とかウイルスがなくなるっていうのは人間が頭で考えてそれをなくさせようと思って実行して、あと残り3カ国になってるっていうわけですよね。それってすごく人間らしいですよね。自然に放置してたら、もしかしたら病原菌に人間が負けてるかもしれない。でもあと3カ国まで来たといったときに、じゃあお金持ってる人はあげましょうって、ルネサンスの時代のやり方ももちろんある。なんだけども、アートを通じたり、世界中の人たちが日常を過ごす中でできることをやったり、そういう支援の仕方もあっていいと思うんです。僕はアートを通じて人助けをしたい。それは仕組みとして非常に面白いと思うんです。直接ファンディングじゃない方法もあるよっていうときに、その一つとして提示したかったんですよね。

坂之上:福田さん、ありがとうございます。

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