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しあわせになる仕事術 Talked.jp

死と隣り合わせのことをやるのが人間なんだ

福田: あと何かの北川さんのインタビューで、「死について毎日考える」ってあったのですが、これ割と男の子に多い傾向なのかもしれませんけど、僕も死ぬの怖くて怖くて、ちっちゃい時ベッドの下に無数に妖怪がいるに違いないとおびえながら暮らしてたんです(笑)。「死んだらどうなるんだろう」とか、それこそ『ムー』とか読んで宇宙人とか火星とかもうそういう方向に夢想してしまうんですよね。その時、もう亡くなりましたけど、渡辺格(すぐる)さんって著名な分子生物学者の方がいて、その人の『死ぬこと』って本を繰り返し読んで、「死ぬことについて、死ぬことを考えている間は死なないっていう前提で考えてる」と。ここを読んでかなり安心したというか、生きていけるっていうふうに思えたんですよね。だから死と幸せの概念って隣り合わせで、同じコインの裏表だから、何かのインタビューで「死ぬこと考える」と言っているのは、これはまたすごい話だよなとは思って。

北川: でも、あんまりちゃんと考えられていないっていうのも事実かなとは思いましたね、自分自身は。

福田: でも、避けてないでしょ?

北川: そうですね。

福田: みんな、避けたいわけですよね。僕自身は50歳過ぎてから、リアルに人の葬式が多くなって、改めて人は死ぬんだと実感しました。いなくなるんです。寄藤文平さんってイラストレーターが描いた、世界各国の宗教観に基づいた死生観をイラストにした本『死にカタログ』っていうのがあります。

北川: 面白い、そんなのがあるんですね。

福田: はい、「この国で死んだら死後はどうなる」って中に、フィリピンだったと思うんですけど、「死んだら別の島で暮らしてる」というのがあるんですよ。死んだ人はこの島じゃなくて、別の島で暮らしてるって、ああ、なんかいいと。

北川: すごくいいですね、それ。

福田: あと北欧の国で死んだら、「同じ道でなく、違う道を歩んでる」って、暗い背景の中で同じようなこと言ってましてね。それに対して、仏教はなかなかダイナミックですよね。「死んでもう一回、人間やりますか、仏様になりますか」って言ったら、「おまえはもう一回人間に戻れ」ってまた戻る。チベットの鳥葬とかいろんな宗教の死生観が全部イラストになっているんですけど、僕はそのフィリピンの別の島で暮らしてるっていうのが、楽天的でいいなと思いました。

北川: それは、その現場の人に話を聞いて絵にしたって感じですか。

福田: いや、なんかいろんな宗教の話を読んでから、1枚ずつのイラストにしている。

北川: その人のイメージで作られているんですね。面白いですね。 死後の話とはちょっと違うんですけども、今、僕が読んでいる『Into Thin Air』という本、これはあるジャーナリストの方がエベレストに登った時の話なんですね。彼自身もクライマーで、『OUTSIDE MAGAZINE』っていうクライマー・マガジンから「君をエベレストに送るから、実際に行って書いてくれ」と発注されてまとめたものなんですけど、その時結構強烈な体験をしているんです。確かガイドも含めて19人ほどで登って、8人も亡くなったんですね、そのクライミングで。その体験を基に、彼自身が短い記事を『OUTSIDE MAGAZINE』に書いたんだけども、「とてもじゃないけど、それだけでは消化しきれない」ということで、その後2年間にわたって執筆したものがこの本なんです。ものすごくよく書かれた内容で、「エベレストという山は他の山と違う。山に登った光悦感だとかそういったものを基に登るものではない」と。だって、登るのに確か3カ月ぐらいかけるんですよ。

福田: そんなかかるんですか。

北川: よく言うじゃないですか。高山病、高山病に慣らすためにベースキャンプから。

福田: 徐々に?

北川: はい、何週間も何週間もかけてやるので、咳き込み始めると止まらなかったりとか、もうとてもじゃないけども幸せのかけらなんてどこにもないと。頂点に立った瞬間すら、もはや下りられるかどうかの恐怖感しかないから何の喜びもないらしいんですね。死と向かい合わせという状態がまざまざと描かれていて、もう絶対登りたくないと思ったんですけど、一方で、死の考え方とか、「それでも登るのはなぜですか?」って聞かれて、「そこに山があるから」って答えた心境だとか、この言葉って有名だから知ってはいたんですけど、この本を読み始めてから「人間とは何なのか」って改めてすごく不思議に思ったのと同時に興奮もしました。これだけ苦しい、死と隣り合わせのことをやるのが人間なんだなと。

福田: やる人がいることが同じ惑星に暮らしているってことですね。

北川: 人間って大なり小なりそうなんだな、ということをとても感じて、だから、この本お薦めです。死を考えるという意味では、いかに自分の日々の生活が近しくもあり遠くもありっていうことを感じました。

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