情報産業革命により、どう人の豊かさをつくっていけるか
河内山: いろいろと概念を変える的な話が出てきましたけども、ここで、昨今話題なっている、働き方について質問をしたいと思います。ネットを見ると、働き方こそソーシャルデザインが必要なじゃないか、みたいな話があったりしますよね。そこら辺を、ちょっと聞きたいなと思います。
並河: デジタルの時代になって、働き方がすごく変わってきています。もともと広告業って結構アナログだったんです。クライアントやテレビ局の人とワイワイやりながら、表現作って、CM作って、「できました!」ってオンエアして、飲みに行く、みたいなノリでやってたんですけども、急にデジタルに変わって、日々パソコンに向かって、バナーとか入稿していくみたいに業務内容が変化している。しかも最適化していかなきゃいけなくて、それこそ人工知能がぐるぐる回ってるようなところに、人間が合わせて働くみたいな、仕事の環境がずいぶん変わってしまって、さらにそれによるコストダウンみたいなことまで言われながら働く事態になっているんです。これ、何かに似ているなと思ったら、18世紀の産業革命なんすね。それまで綿とかを手で一生懸命織って、布ができて、それを届けて、飲みに行ったりとかしていたのが、急に機械が24時間回るようになって、そこに人がついてなきゃいけないみたいなことが起きた。産業革命で最初に起きたことって、やっぱり効率化なんですよね。「人がやることを機械に変えると、こんな効率化ができる。こんな安くできる。」みたいな世界で、どんどん機械で作るようになったと。デジタルの情報産業革命でも、働き方が変わって、要はこれも効率化なんですけど、ターゲティングっていわれる方向にガーッと走っていき、コストダウンが求められるようになっています。ただ、産業革命が生み出すものって効率化だけじゃなくて、それによって生まれた技術をベースに、文化も生まれてきたので、情報産業革命も、今は効率化というか、人間がやっていたことをデジタルに置き換えれば、これだけ簡単にできるみたいなほうに進んじゃってますけど、ここから徐々に、その上にどうやって人の豊かさをつくっていくのかみたいな絵図に変わっていくべきじゃないかなと思っています。だから、僕は勝手にあちこちで「情報産業革命、フェーズ2にいこう」みたいな話をしています。
豊かな生活していないと、人を助けようなんていう気持ちにならない
福田: すごく長い目で見ると、残業問題って絶対なくなりますよね。もう間違いなく、将来的には余暇が増大していくんですよ。僕が新卒で1988年に会社入ったときは、隔週かなんかで、土曜日も出社してましたよ。それが今では完全になくなってます。運送会社なんて人手確保のために週休三日にしようって機運も高まっている。この100年くらいで、休む時間が増えてますよね。効率化したら余る時間が増えるんで、何もしなくても残業問題ってなくなると思います。ドローンが物を運び、AIがロジスティックスを合理化したら、人々はよりゆとりが出来るはずなんです。
20世紀は強烈だったんですよ。工場で生産して、人に届けるためには人を配置して、材料用意して、それを管理して、マージン乗っけて売るっていう、言ってみれば、中抜き産業っていうのが世界の産業の中心だったんです。でもGoogleとかFacebookって、あれだけ巨大規模で、あれだけ利益上げてる会社が、何かフィジカルで物を作っているかって言ったら、何もないんですよ。でも仕事として成り立っているということは、既にそういう会社がある、そういう働き方があるってことですよね。もちろん、物作りしている会社も厳然と存在していますが、ICTを活用して物凄く合理的な製造体制を多々の得ているわけです。
この間、孫泰蔵さんとランチで雑談してたら、面白いことおっしゃるんです。孫さんの会社はクラウド上で「こういうプロジェクトがありますよ」って提起すると、それに関心ある技術者が好きなところ、得意なところから解決するんですって。当然、どうしても難しいところとか、わからないところが残るんですが、そうしたら、また別のそれが得意そうなコミュニティでそれを解決していくんです。そうすると、「この目標のために人員を集めて、プロジェクト解決するぞ。じゃあ、稟議を回して、ここまでは君の決裁で・・」ってやっている会社よりも、はるかに早く問題解決するらしいんですよ。
そんなスタイルのお仕事なんで、孫さんは「なんでスタッフは毎日会社に行かなきゃいけなきゃいけないんだ?」って疑問に思ったんですって。もうSkypeでいいと。ある一瞬みんなが1カ所に集まらなきゃいけないとすれば、横の情報交換か、雑談のためだろうと。だから、今後の会社っていうのは、ランチタイムとハッピーアワーをコアタイムにすればいい。そう考えた結果、「オフィスは食堂でなきゃいけない」って結論づけた。(笑)
もう一つ、本物の働き方改革を徹底的にやるっていう会社はMicrosoftですね。Microsoftのアウトルックでいろんな実験をやっているらしくて、「あの人にメール送ったら、何分でリプライがあった」とか「最近コンタクトしてない営業マンはこの人」とか、全部アウトルックがバックアップしてくれる。徹底的に管理することによって、時短を目指すっていう、こういう改革もあるわけです。
こないだある政治家の方と「待機児童ゼロ、どうしたらいいだろう」っていう話になったんですけども、そもそも、会社に行かなきゃいけないから、待機児童問題が出るんです。児童のほうが会社に来れば、そんなものゼロになるわけで、いくらでも改革ってできるんですよ。いかに経営者とか社会が「できる」って思って実行するか、これに尽きますよね。
ちょっと話がそれるかもしれませんけども、やっぱり、余裕がないと人助けってできないですよ。大した働きしていませんけど、僕もいくつかNPOの理事、やっていますが、年次総会などで「来年の理事長の給与はこれくらい」なんて報告を聞くと、「1000万円でも、2000万円でも、たくさん取ったほうがいいよ」と進言するんです。豊かな生活して、おいしいもの食べないと、人を助けようなんていう気持ちにならない。だから社会のゆとりだとか、そういうものをつくっていくことで、さっき言った、デザイニングだとかアイデアっていうのも湧いてきますから、できるだけ異業種の人と付き合う方がいいと思います。