10~40代まで、すべての役者が揃うのが50代
橘川:さっきの10~40代までの起承転結でいうと、20代になったときに、自分の中で「10代とは違うな」っていいう、“カラッ”ていう音がしたんですよ。30歳になったときにも、同じ音がしました。「あぁ、今までの20代は終わりだ」と思って、音楽も当時のレコードも本も、全部捨てたんですね。若いやつを集めて、「持って行け」って。全部カラッカラになって『ロッキング・オン』も辞めて、『ポンプ』も辞めたんです。なんの展望もなくてね。
福田:分かりますよ。僕も最初に就職した東北新社を辞めたのがちょうど30歳でした。言われてハッとしましたけど、僕も10年ごとに転機がきていました。自分で創業したソニー・デジタルエンタテインメントも、10年目の節目で昨冬に独立しましたしね。
橘川:福田さんは、今50代ですよね。僕は50歳になった時、音がしなかったんですよ。これから、また変わるなっていう音が。だから、「オレはもう終わったんだな」と思ったわけ。そこで若いヤツをまた集めて、生前葬をやったんですよ。「オレはもう新しいことは分かんないから、もう終わった」と。
福田:なんて潔いんだ(笑)。
橘川:「今まで考えていたこと全部、お前らに伝えるから」って、一生懸命レクチャーしたんですよね。ところが、そこからまたいろんなことが始まってきて。「橘川さん、詐欺ですよ」と責められました(笑)。
福田:終わっていなかったんですか?
橘川:音はしなかったけど、終わっていなかったんですね。それが何か分かったのが、60歳になってからです。今、僕は68歳ですけども。
福田:というと、僕が初めてお会いした時は、カラーンと音が鳴らなかったという頃ですね。
橘川:そうですね。それで60歳になったときに、50代って何だって言ったら、自分の中に「10代の自分、20代の自分、30代の自分、40代の自分」が役者として揃ったということだったんです。ある時は10代の気持ちになって、ちょっと無茶やってみようとか。ある時は40代になって、ちょっと抑えてみるとか。自分の中に役者がそろったから、もう何でもできちゃうわけ。
福田:なるほど。だから50代では、「もう役者作りはいらない」ってことで、音はしなかった。
橘川:そうなんです。あとは今までの自分を展開していけばいい。
福田:美しい整理ですね、それは。