「物語」を伝える、新しい旅の音声ガイド
福田:じゃあ、ある地域に大きな神社があるとリサーチしたら、次は「音声ガイドを作りますよ」と売り込みをして、「ぜひやりましょう」となったら、作り込みの作業なんかもバンの中で作業する、と。
成瀬:バンの中での作業は、編集とか制作とかライティングですね。当然、カメラは現場に行かないと始まらないので。今は僕が事前に現場に行って、お寺や神社などの文化財と交渉をしたりしています。最近は徐々に、先方からお声かけいただくことも増えてきました。
福田:立ち上げからわずか1年半で、すごいですね。営業していて、「いやそういうのは要らないから」と断られるようなこともあるわけですか?
成瀬:激しく拒否されることはないですね。文化財にそのニーズが確かにあるので。僕たちは一つの文化財のオーディオガイドを、だいたい360円で販売しています。美術館にもオーディオガイドがあるじゃないですか。500円とか、場所によっては800円とか。そのビジネスモデルに近いのですが、来場者はスマホがあれば自分のスマホにガイドをダウンロードできます。今までのガイドは、何年に誰が作ったのか、という情報が多かったのですが、僕たちが注力しているのはその背景、物語。文化財の体験をクリエイティブの力でアップデートする。もちろん文章だけでなく、撮影やデザインなども全部、僕たちでやると。
福田:ナレーションから各国の言語対応とかも全部? 何カ国語対応なんですか。
成瀬:翻訳も含めて、全部ですね。今、日本語、英語、中国語の簡体字、繁体字の4カ国語。これから韓国語も作る予定です。
福田:ON THE TRIPのユーザーは、現状では日本人と外国人、どっちが多いんですか。
成瀬:今はまだ日本人のほうが多いですね。結局、日本人観光客のほうが度合い率が多いので。日本人が7割、外国人が3割、という感じです。
(アプリを見せながら)ちなみに、こんな感じで作っているんです。ひとつひとつのガイドが360円なんですけど、課金をするとスタートして。
福田:なるほど。アプリ内課金なんですね。トップページ見せてもらっていいですか。
成瀬:トップページは、こんな感じです。今、自分がいる場所からいちばん近いところのガイドが出るんです。たとえば今は、ここから東京タワーが近いので、東京タワーのガイドが出てくるという。
福田:なるほど、GPSで連動して。
成瀬:そうです。京都に行って、貴船神社行ったら、貴船神社が一番目の前に出てくる。
福田:文化財だから、重点領域は京都、奈良、沖縄とかなんですね。写真も素晴らしい。
成瀬:ひとつひとつのガイドに、物語を伝えていきたいと思っています。要は、ストーリーラインというか、プロットみたいものを作るんですね。例えば、京都の貴船神社は水を祀っている神様なので、とにかく水のことを追求する旅を提案しています。「実は水は神聖で大切なものだから、ここに神社が建立された」みたいなストーリーがあって、ガイドを聴き終わった後、ユーザーが水について考えるような、少しでも日常に持って帰れるようなワンメッセージを込めています。1ガイドにつき、ワンメッセージなんですけど、それぞれにテーマを決めて。
福田:これまでのガイドとは、そこが大きく違うんですね。ウィキペディアに書いてあるような歴史的背景だけ説明して終わり、ではなくて。
成瀬:そうですね。おそらくそこが一番、僕らが他のガイドとは全く違うところです。逆に、「何年に建立」みたいなことは、ほとんど伝えてないというか。ユーザーとしては、心にあまり残らないかなと思って。