リアルな生活がデジタル化していく
成瀬:さっきのフェイクニュースの件ですが、「コタツ記事 」なんて言われ方もしていますよね。実体験もなく取材や調査もしないまま、メディアで流通している情報だけで書いちゃう記事のことですが。
要は、どこにいても、記事ってべつに書けるわけですよね。ビルの片隅にいて、世界中のものを集めて紹介する、ということだって当然できる。当初のキュレーションメディアって、まさにそんなふうだと思います。キュレーションメディアならではの役割は当然ありますが、愛のあるコンテンツを作っていくというときに、僕は「自分の目で実際に見たい」という気持ちが強くなってきたんです。これはもう、作り手としてですけど。
福田:なるほど。ここまでのまとめでいうと、キュレーションサイトもたくさんあって、SNS時代ではあるけれど、やっぱりコンテンツありきだよね、と。旅や「世界を知ろう」というテーマをお持ちだった成瀬さんだから、「もうちょっとリアリティーのある現実との接点を探ろう」ということが今の新企画につながっているんですね。
成瀬:そうですね。「制作するプロセス自体を僕らが面白がることで、コンテンツ自体が面白くなるだろう」っていう意図でやっています。だから実際に現場にいき、暮らし、遊び、その場所の体験がどうやったら膨らむかを考えています。
沢木耕太郎さんの『深夜特急』なんかは、もちろん日本で読んでも面白いんですけど、シベリア鉄道の中でとか、インドのガタゴトした鉄道の中で読むと、ちょっと味があるんですよ。『沖縄文化論』っていう岡本太郎さんの本とかも、沖縄で読むと直接腹に刺さるというか。
その場所で、その場所にまつわるコンテンツを体験することで、五感に基づいた情報が入ってくるというのが、これからのポイントになるなと思っているんです。シチュエーションに特化して伝えられるガイドは何かって考えると、やっぱりその場所で聴くその土地のストーリーなんですよ。貴船神社のガイドにしても、僕は貴船神社でしか使われることを想定していなくて。ユーザーが体験できる位置が明確にあるコンテンツを流せるっていうことがすごく面白いなと思って。
福田:利便性を優先して満員電車の中で見たり聴いたりしてもいいけど、そうではなくて、リアリティーの接点において生きるようなデジタルコンテンツですよね。今はやっぱり、「オフラインをオンライン化するビジネス」という考え方のほうが多いんじゃないですか。中国の蘇寧易購グループ(Suning)なんかは、顔認証決済を導入して、スマホがなくても買い物ができると話題になりましたよね。つまり買い物という行為は、たとえデジタル化が進んでもなくならないわけですよね。だから、リアルな生活というのがデジタル化していくんだと思いますね。
(後篇へ続く)