進学校で積むトレーニングより、音楽が面白かった
坂野:福田さんも、中高一貫の男子校ですか。例えばそういう学校にいると、進路のためのトレーニングをひたすら積みますよね。将棋でも、チェスでも、「こう来たら、こう置く」みたいな定石のようなもの。ところが僕は、高2で中学から5年間いた学校を辞めて以来ずっと、そういう確定路線を歩む経験をしていないんですよ。
それなりの進学校の卒業切符が目の前にあって、高3の1年間は何もしなくても、人生の保険になりうる切符はもうすぐ手に入るのに、「え? いらないの? みんなこの切符が欲しくて、ここに来てるんだよ」というところで、「いや、それを持たない方が、人生面白そうだ」ってなった。で、お前は何を考えてるんだみたいな話になりますよね。
福田:でも、確定路線よりもっとすごいじゃないですか。だって、バークリー行っちゃうんだもの。
坂野:ロジックの世界よりも、やっぱり音楽は面白かったんですよ。傍から見たらめちゃくちゃだったと思うんですけども、余計なものにとらわれずに、物事の本質的な匂いを嗅ぎ分けることに関しては、たぶん僕ね、天才みたいです(笑)
福田:(笑) やっぱり音楽は、右脳的なんでしょうか。
坂野:勉強は、やれば出来るようになるみたいなことが、何となく自分の経験の中であって……。
福田:たしかに勉強って、個人差はあれ、やれば出来るようになりますよね。やらないと出来ないままですけど(笑)
坂野:「ものを整理して定義付け、積み上げる能力」っていうのは、僕にとってはあまり面白くないわけですよ。もちろんそれが得意で、お金を稼いでいる人はいっぱいいるし、「ほぉー」みたいな感じではあるんだけど。でも僕は、情報整理や効率化っていうことには極端に興味がなかったんです。
福田:ロジックの世界から直感の世界ですね。
坂野:なのでそっち側に自分自身を放り投げて。音楽の方が、面白かったんですよね。音楽って、好きと嫌いを一発で伝えられるし。
福田:面白い。バンドはやってたんですか?
坂野:バンド、それがやらないんですよ。サックスばっかりして。
福田:(笑) バークリーに行く前から、サックスはやってたんですか? それとも行ってから?
坂野:行く前からやってました。音で何かを伝えられるっていうのが、とにかくうれしくて。
福田:掘り下げてなんですけども、サックスをやろうって高校生で思うに至ったのはなぜですか?
坂野:声が一番身近な楽器だから、本当は歌でいきたかったわけですよ。だけど、なかなか世間は許さないわけです。いくら自分が歌っても(笑) 音痴っていう程ではなかったんですが、歌手になれるほどじゃなくて。「この身体に近い感じって、ほかに何だろう?」って思った時に、やっぱりサックスでしたね。