中国人にとっては、「食うこと」「生きること」がすべて
福田:坂野さんと以前お会いした時に面白かったのは、アメリカのハイエンドな建築の仕事から、中国のどうなるのか分かんないようなものを同時にやることで、自分でバランスを捉えているっていう話だったんですよね。仕事として両方取っちゃうセンスっていうのは、どういうところから来るんでしょうか?
坂野:やっぱり、好奇心ですよね。好奇心。例えばアメリカの仕事しかしてないと、自分の引き出しの、「ここら辺」しか開いてない感じがするんですよ。でも中国のこっち側に行くと、別の「ここら辺」の引き出しが開くみたいな。でも両方とも、自分の中にある部分なんですよね。
福田:分かった。だから坂野さんは、アメリカで「自分ってこうだ」っていうことを体験しながらも、常に何か欠けているものとか、やり残したことは何だろう?っていうふうに、商品を整え直すように、棚卸しをされているのかなと。
例えば売れ残った在庫を前にした時、自分の中に他人の目を持ってきて、「これってどうしてなんだろう」ということをしない限り、さっきの引き出しの話にはならないですよね。
坂野:そうですよね。だから、絶対に置かないところに駒を置いてみて、自分自身の棚卸しをしているような感じですよ。それで、「おお、面白いぞ」みたいな。
福田:実際に中国のプロジェクトなんていうのは、どういう気付きがあったんですか?
坂野:日本と中国って、結構誤解が多いなって思うんですよね。一方でアメリカと中国は、僕の中では「仲の悪い兄弟」みたいなイメージがあって。
福田:たしかによく似ているから、本当は仲がいい可能性ありますね。
坂野:そう、似てるんですよね。よく衝突することでいうと、中国は約束をしないとか、約束を守らないっていう話があるんですよ。でも日本は、約束を守って、全体感で社会を機能させるのは、超すごいわけで、得意なわけですよ。もしそういうオリンピックがあったら、たぶん常に上位3位みたいな(笑)
福田:そうでしょうね。約束守る率高いですよね。
坂野:でも中国にはそういうのはないんですよ。約束よりも、「飯を食うこと」。それに尽きるわけです。文化とかそういうのも、飯を食うのに役に立つから。お金お金って言ってるように見えて、お金よりもっと大切なのは、生きてくっていうことなんですよね。命がつながってく。それ以外のことは、彼らの価値観としてどうでもよくて、全部おまけ。約束も、命がつながってくのに必要だったら守るし、必要じゃなければべつに守らない。
福田:ということは、厚かましい解釈ですけど、日本人は約束を守らせようと思うわけですから、守らせるためには、彼らにとっての生きるためのストーリーをちゃんと説得できればやるわけですね?
坂野:そうですね、そうです。
福田:それ、中国進出を目論む企業へのアドバイスとして、すごいいい話ですね。
坂野:中国の人と付き合って、うまくいかなくなるのはたぶん、疲れちゃうから。常に「自分はあなたが生きるのにとって、必要な存在ですよ」っていうのをずっと言い続けなきゃいけない、ずっとやり続けなきゃいけない。それって日本的な美学からすると、とってもハードなことっていうか。
福田:そうですね。「そんなことぐらい分かってよ」って、日本人は思っちゃう。あなたの人生にとって、オレは欠かせないっていうプレゼンテーションですね。すごいエネルギーを求められるわけですね。だから約束も守った方が得だよ、と。面白いな。中国とビジネスをする日本人は、心得ておいた方がいいかもしれない。
(後篇へ続く)