ユーザーの「ブランド・スイッチ」が入る時
福田:話が少し戻りますけれども、「ブランディングって必要なんですか」とやたら聞かれる機会が多いんですね。僕は、さっきの和田浩子さんのお話にもありましたけれども、「マーケティングは、知ってもらって、買ってもらうということが目的」。だから「営業に行くなら宣伝部」なんですけども、ブランディングは「この商品を愛してください」と言うこと。愛はお金で買えないうえに、しかも失敗も多い。というと、費用対効果やコスト重視の宣伝部では、ブランディングというものを扱えないんですよ。
つまり、ユーザーに愛してもらうためにはいろんなチャレンジや失敗がある。だから経営者と同じ目線に立って、「これ失敗しましたね」「これは成功しましたね」っていう経験を共にすることでしかできないので、職業としてはなかなか新しいんですけども、難しさもまたありますね。
坂井:そうですね。皆さん、「ブランド・スイッチ」って分かりますか。たとえば、前まではこのブランドを愛用していたけど、今回から別のブランドに変えた、ということですね。それでいうと、シャンプーやトリートメントのブランド・スイッチのタイミングって、いつだと思いますか?
福田:期間ですか。家にあるものがきれた時?
坂井:そうですね。きれた時なんだけど、もうちょっと近い時間でいうと、どうでしょう。
出席者A- 「シャンプーの前」でしょうか。
坂井:そうそう。浴室でシャンプーをプッシュしようとしたら、もうないと。じゃあそのブランドを買い続けるのか、この際、切り替えてしまおうかっていう、ブランド・スイッチのタイミングがそこにある。その時って、まずそのユーザーが覚えているブランドしか買わないんです。その覚えてもらっているブランドになれるかどうかっていうのが非常に重要なんですね。
福田:なるほど。最近は、テレビCMでブランド・スイッチが起きるよりも、SNSの影響が大きいのかもしれませんね。僕がソニーにいた時はテレビメディア全盛時代で「キララバッソ」なんかが売れた時代で、ブランドロイヤルティーが高かったんです。で、どれぐらいのブランド・スイッチが入るのか調査結果を見たら驚きました。テレビのような高価な商品を4~5年使って、良いと思ったらブランドを替える理由もあまりない気がするんですが、4割以上の人が一度ソニーを買っても、次はシャープを選んだり、パナソニックを買ったりするんですね。値段が安いとか、新しい機能が加わったという店員の説明でコロッとブランドスイッチが起きちゃう。ソニーみたいなブランドロイヤルティーが高いお客さんがいても、次の買い換えで4割替わるってことは、ユーザーに愛され続けることの難しさを感じました。