ブランディングとは、 「いかにユーザーに愛してもらうか」
福田:僕、このスライド初めて見ます。
坂井:要するにマーケティングは「僕、頭いいでしょう」っていうこと。で、ブランディングは「あなたは頭がいいと思います」ということ。売る側はべつに何も言ってないのに、ユーザーがそう言ってくれるわけです。
福田:そういうことなんですね、これは。
坂井:つまり、「ポルシェはいいと思います」って言うのは、ポルシェが何か言ったから、ユーザーがそう言い出したわけじゃないんですね。
福田:だからやっぱりこれ、さっきの話の「ブランディングとは愛してもらうこと」に通じますね。「ポルシェがいいと思います」と言ってもらえている、ということは=ユーザーには愛が通じているわけですから。
坂井:そうそう。ユーザーが言ってくれる。これは皆さん、分かりますよね、感覚的に。
福田:「自分の商品が優れているよ」ってアピールするのが、ブランディングではない。
坂井:で、次はアドバタイジングとPR。
福田:これまた難しくなってきましたね。
坂井:アドバタイジングはしつこいですよね、やたら。PRは、「彼はとても頭がいいんです」とやんわりと伝えていますが、いずれにしても押しているわけですね。 でもブランディングだけは唯一、売る側ではなくて、ユーザー自体が発信しているわけですよ。
福田:分かりやすいですね、この図は。
坂井:という違いがあるということを知ると、「マーケティング」と「ブランディング」、「アドバタイジング」と「PR」という、非常に紛らわしい言葉が整理しやすいかなと思います。
福田:なるほど。ブランディングの定義もいろいろありますけども、「CSR」とか「PR」とか、人事、組織(HR)も含めて、そういうのを全部含めてブランディングですよね。
坂井:そうですね。
福田:僕がブランディングを意識するようになったのは、それこそ前職でP&Gさんと仕事をさせていただいた経験からなんですけども。もう20年以上前の話ですが、ジム・ステンゲル氏という、伝説的なP&Gのマーケッターです。世の中で最初にCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)を名乗った方です。この方の著書『本当のブランド理念について語ろう』(発売:CCCメディアハウス)は日本でも翻訳されているので、皆さんも読んだことがあるかもしれませんが、その中にアメリカの上場企業「S&P500社」という格付けリストがあって、この10年間の売り上げ利益率を調べているわけですね。その中でブランディングを意識している会社、たとえばコカ・コーラとかP&Gとか、そういう50社を抜き出して、その「S&P500社」と比較したんですよ。
結果、ブランディングを何も考えていない会社は、10年間で7%ROI(成長率)が落ちている。反してブランディングを戦略にしている会社は、300%以上伸びている。企業は単年主義なので、「売れた、売れない」を3カ年計画でやっているわけですけど、ブランディングは一夜にしてできないので、中期的な視座が必要なんですね。
坂井:勢いだけでは、リスクが大きいですからね。
福田:はい。で、さきほどの図でいう、「どうすればこの商品が愛されるのか」というブランディングでいうと、「P&Gのシャンプーって成分がちょっといいのよね」って、企業が必死に売り込まなくても、ユーザーが勝手に言ってくれるような状態を作っている企業は、非常に利益的なんですね。ジム・ステンゲルスの試算によると、時価総額の3割ぐらいがブランディング要素だということです。日本の株式市場だとブランド時価はゼロで見られているでしょうね。
しかも前述の50社の中に、日本企業は1社もないんですよ。決め付けはいけませんが、日本人のメンタリティーは、やっぱりなかなか「マーケティングマインド」から「ブランディングマインド」へはいきませんよね。費用対効果やコストの無駄ばかり叫ばれますけど、一見無駄に見えるものが、どう有機的にマーケティングに結び付いて、その動きからブランディングにつながるのかっていうのが、おそらく今後の大テーマになるんじゃないかなと思っています。