多用な表現よりも、ひとつのテーマ
福田:だいぶ時間も来ましたので、まとめましょうか。っていうか、ほぼまとめが不可能な感じですが(笑)
柳瀬:いや、まとめましょう。ここからまとめますよ。
福田:先生、厳しいです(笑) これは「ヒットメーカーに聞く」っていうシリーズなんですけど、僕は日頃、「どうしたら有名になりますか」とか、「会社がつぶれそうなんですけどアドバイスください」とか、そういう仕事をしているんですね。で、お話をお聞きしてると、ほとんどは問題点は一つで。どんな仕事に就いている人も、社会との接点を明確に説明できる人しか生き延びることはできない。例えば貿易業をやっていてB to Bと言っても、社会との関わりがあって、輸入したり輸出したりしてますよね。そのことを自分と社会との接点として理解し、それがいつの日か応用できるようになるとヒットが出るのではないでしょうか。
柳瀬:分かりました。僕のほうから一つ。今、多様性の時代と言われますが、僕は自分がやることは、ある程度一つに絞ったほうがいいと思っています。もちろん、いろんなことやっていいんです。僕も割といろんなことをやるし。でも何ていうんだろう。表現系はいろんなことをやったほうがいいし、体験もそうですけど、自分のテーマは1本に絞ったほうがいいなと思いますね。いろんなことをやっているけど、テーマは1本っていう人が強い。ところが、ここをごっちゃにする人がすごく多いんですね。
ずっとヒットを出しているクリエイターというのは、実はテーマの切り口は一つの人が少なくない。例えば村上春樹さん。村上春樹さんは、いつも、二つの世界を主人公が往復する。そこで何かを探して何かを失う。処女作の3部作から直近の『騎士団長殺し』まで1回もぶれることなく、それしか書いていない。『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』も『ノルウェイの森』もそうだし『羊をめぐる冒険』も、『海辺のカフカ』も『ねじまき鳥クロニクル』も。
ハリウッドで長老はクリント・イーストウッドですけど、今88歳ですからね。88歳で現役で、また新しい彼女とかつくったりして恐ろしいおじいさんですけど、相変わらず新しい作品を出しています。例えば去年の『15時17分、パリ行き』は実話ですよね。パリ行きの国際列車の中で起きたテロを未然に防いだアメリカ人3人の話。米軍のあんちゃん2人と、もう一人は大学生ですが、面白いのはこの3人が本人で、本人にやらせちゃったんですよ。普通、本人にやらせるかと思いますが、クリント・イーストウッドはやっちゃった。で、むちゃくちゃ面白かったんです。『アメリカン・スナイパー』も実話で、ブラッドリー・クーパー本人に撮らせました。作品を毎回そうやってアバンギャルドにしていろんなテーマにしていますね。『ダーディハリー』とか昔の話もあるけれども、実は彼も自分で撮るようになってから、テーマはいつも「許せない過去を持った自分を、自分自身で克服し、あるいは復讐する」という物語を書いているんです。過去にトラウマがあって、そのトラウマを現在に持ってきた敵がいて、その敵を倒すことによって、次の道が開ける。そればかり描いている。
福田:それこそが、さっきの「社会との接点」ですね。それいろんな形で表現をしている。
柳瀬:そうです。だから表現形は多様であっても、1人の人間が持てるテーマって、僕は多分一つだと思うんです。僕もまだ探している口ですが、自分探しもすればいいと思うんですけど、いろんなことに手を出して、表現形はいろんなことをやって、いろんな所へ行けばいいと思うんですけど、テーマは一つなんだ、と。でもそういうのって頭で考えるのではなく、結果、「オレの好きなテーマ」とか、「オレってこういうことがやりたいんだな」っていう軸になるものが、自分の真ん中に必ずあると思うんですよ。例えばこっちでお酒を飲んでいても、趣味をやっていても、仕事をしていても勉強をしていても、自分の中の好きな「核のテーマ」っていうのは、所与の条件のように、自分の持っているDNAと、たまたま体験したことで組み合わさって出来ている。それを見つけられたら、僕はその人のそれなりの何かを必ず出せるんじゃないかなと思う。なのでぜひ、それを探してみたらいかがでしょうか。
福田:素晴らしくまとまりました。柳瀬さんはいつもお話していて面白いんですけど、大学の先生になられてさらに磨きがかかって。本当に本日はありがとうございました。
柳瀬:こちらこそ、ありがとうございました。
(了)
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