“ガギグゲゴ”がつく名前は強い
福田:なるほど。だから、元となるのは脳なんですよね。脳の仕組み。するとマーケッターはもっと語感に注目するといいかもしれませんね。僕が定義するマーケッターは、「世の中を見る人=マーケットを見る人」という意味なですが。
黒川さんのご著書で、本来”ガギグゲゴ”が頭につく商品名は売れないと書かれているのを読んだことがあります。でも「ゴジラ」とか「ガメラ」は、ヒットしました。商品名でいうと、「ガリガリ君」とかありますし。本当は嫌なサウンドなんだけど、あえて裏をかいているとか?
黒川:『怪獣の名はなぜガギグゲゴなのか』(新潮新書)
という本ですね。「ガギグゲゴが頭につく商品は売れない」ではなく、「ガギグゲゴは、若い女性向けの商品には使わないほうがいい」「ガギグゲゴを先頭音に使うと、発音エネルギーが高いので広がりにくく、すぐには売れにくい」と言うのが正解なんですが、私がうまく書けていなかったのでしょうか。なにせ15年前の本なので…6月に私の語感研究の集大成を書いた「語感のトリセツ」(インターナショナル新書)が出ますので、ぜひ、そちらのほうを参考に(微笑)。
「ガリガリ君」は、あの触感をうまく表現したとてもいいネーミングですよ。ただ、たしかすぐにはヒットしていなかったと記憶しています。Gの音は、発音するときに、のど壁をぐっと閉めるんですよ。例えば、けんかをしてネクタイをぐっと持ち上げられたとき、じつは私たちののどには「参った信号」が届いて、体が虚脱するようになっているんです。なぜなら、首を締められたときは頑張るよりも虚脱したほうが、気道が確保できるから。
“ガギグゲゴ”は、そこまで深刻ではないですけど、やっぱり、自分で自分ののどを締めているわけです。そうすると、のどに「参った系」の信号が届いて、相手が強く大きく感じられるんです。「ゴジラ、キングギドラ、ガメラ、ギャドン」とか。これが「コシラ、キンクキトラ、カメラ、キャトン」だったら、ちっちゃくて弱そうな感じがしますよね。英語でもギャングとかギャラクシーとかジャイアントとか、大層なことにやっぱりG音が使われています。
福田:そこに目を付けられたんですね。素晴らしいな。たしかにそう言われてみると、濁音をとると怪獣も弱っちく見えます。宣伝マンが机上で考えるヒット商品名なんて、脳と身体の仕組みからすると、まるで駄目なのかもしれませんね。
黒川:でもそれが、皆さんちゃんと直感で降りてくるんですよ。優秀なコピーライターさんが作ったコピーやネーミングについて、メーカーや企業の方が迷われてうちに分析をご依頼されることがよくあるんです。あとは広告代理店が出してきた商品名のうち、「一番いいのはどれか評価してください」とか。そうすると、コピーライティングのギャランティーが高い順に、正しいんです、やっぱり(笑)
福田:ははは(笑) 優秀な商品名やコピーは、直感的。そういうことなんですね。