脳は自分とは違う遺伝子に発情する
福田:ここで、読者のみなさんの関心事である男女脳の違いについても、ぜひお伺いしたいと思うのですが。さきほどの「56年で一周する大衆の気分」という脳の仕組みでいうと、「7年目の浮気」とか、結婚生活についても「7の倍数」がターニングポイントになるんですよね。それも、免疫システムと関連づいているわけですか。
黒川:恋をした当初は、相手の匂いに刺激を感じます。体臭に含まれるフェロモンの匂いの種類は、HLA遺伝子(白血球の血液型として知られ、最も多くの多型性を持つ遺伝子)の型の種類に連動していると言われ、動物は体臭で「自分の免疫力のありよう」を異性に知らせていると考えられています。つまり、違う遺伝子の持ち主の体臭を、最初は異物と感じて発情するわけ。しかしながら、脳は、「定常の刺激」に、慣れて飽きるという仕組みも持っています。
例えばのどかな地方の郊外から、幹線道路わきのアパートに越してきたとします。そうすると、夜中にダンプの音がうるさくて眠れない。でも一生眠れなかったら死んでしまうので、この音に慣れていくわけです。「異物を感じて反応する」は大事なリスクヘッジですが、その異物が定常に変わった場合には、いつまでも反応しているとかえって危ないからです。だから1カ月に1回しか会わない愛人だったら、そんなに慣れないんですけど、毎日一緒にいると、その相手のHLA遺伝子への反応、つまりときめいたり、むらっとしたり……みたいなものは当然、少なくなっていくわけですよ。
福田:「会えない時間が愛を育てる」ってのは、やっぱり真理だと。
黒川:そうですね。でもこれはしょうがないです。だから結婚後7年経ったら、「ちがう二人」になると覚悟した方がいい。でも、「刺激と興奮」から「一体感」に変わっていく道のりだと思えば、それもまたいいものです。ただし、「自分の身体の一部」みたいに感じ出すと、「ありがとう」も「うれしい」も「おいしい」も言わなくなるので要注意。自分の手をほめないように、妻をほめない。自分の足に感謝しないように、夫に感謝しない。それは気をつけたほうがいい。感覚は一体、ことばは「大切な他人」。これは、円満の秘訣です。
「最初の刺激から7年」なので、人生には、その周期が折り重なるようにして、たくさんある。結婚して7年、就職して7年、その家に暮らしてから7年、趣味を始め手から7年。ただの「自分の7年」というのもあります。「7歳、14歳、21歳、28歳」っていうのは、それぞれに脳の分岐点になるんですけど。
福田:なるほど。確かにそうかもしれません。まったく趣味の合わない夫婦の方は意外と多くいますよね。一体どうして結婚しちゃったんだろう?って話をよく聞きます(笑) ご著書を読んで、ぱっと分かりました。つまり、違う遺伝子を残すためだったんだ、と。
黒川:そうです。ヒトは免疫抗体の型の遺伝子が違う相手に発情するように仕組まれているので、おっとりな人はせっかちな人とつがいになることがよくありますね。自分と趣味が合わない、価値観が合わない、「なんでだろう」と結婚後にイラッとくることがよくありますが、この「イラっとする思い」と、「ムラっとする思い」は、脳の中ではよく似た信号なんです。だからイラっとしない相手に対しては、実は、「ムラっと」も少ないんですよ。
福田:すごいこと聞いちゃいました(笑) 「イラっとばっかりする!」と思っていたら、そこには「ムラっと」もある。
黒川:「ムラっと」は、「イラっと」と、抱き合わせなんですよ。
福田:なかなかつらいですね、DNA設計というのは……(笑)