インターネットによって、 すでにシンギュラリティは起きている
福田:最近はSNSで、外食チェーン店のアルバイトが厨房で遊ぶ画像が流出して炎上したりしてるじゃないですか。「インターネットが見ている」という状況を回避して生きるにはどうしたらいいんでしょうね。
黒川:この流れはもう止められないですよね。事実や真実をさらされることに関しては、個人で言うと、企業もそうかもしれませんけれど、さっきも言った通り、インターネットはお天道さまです。お天道さまが見ているから、インターネットが見ているから、恥ずかしくないように生きるという時代だと思うんですね。日頃、公明正大に生きているということ。「あの人は、あの企業は、そういうことはしない」という、結局はすごくアナログな信頼の中で私たちは生きてくしかないなと思うんですね。
ちょっと話がずれるかもしれないですけど、「AIでシンギュラリティが起こる」みたいに言われていますが、私はAIではなくて、インターネットによってシンギュラリティはすでに起こっていると思います。みんながもう、ある技術特異点を過ぎて、一人一人がどうにも認知できない、制御できない域に入っているから。いまさら今まで人がやってきたことを人工知能にとって変わったとしても、世の中はそう変わらないのではないかと。要はもうインターネットでシンギュラリティが起こっているから、それにどう対応してくかっていう考え方だと思うんですよ。
私は20年ぐらい前からずっと思っていることがあって。家電がマイコン制御になって、さらにインターネットがつながったら、武器になりうることだってあると思うんです。たとえば何かの家電に、「2019年5月1日、ユーザーを攻撃しろ」っていうチップがもし入っていたとしたら、本当に攻撃しますよ。車が自動運転になって、GPSを発信するセンターを乗っ取られたら、もうおしまいじゃないですか。私たちはそういう時代に暮らしている。だから私は、電球ソケット一つでも、知らないメーカーのものは買えないです。自分が行ったことのある、工場の場所を知っていて、働く人も見ている日本企業…そんなふうに自分が知っている、ここまでずっと誠実にやってきたブランドしか信用していません。インターネットで地球の裏側の激安家電製品を買える時代でも、だからこそ私は信頼するブランドでしか物を買わない。自分の町の工場とか、自分の知っているおじさんが開発部長だとか、そういうところが一番安心。
福田:そうですよね。いかに愛されているものをちゃんと選んで買うか。それが問われていますよね。黒川さんのおっしゃる、すでにインターネットによってシンギュラリティが起こっているとするならば、逆に今はアナログしか信用できない。アナログ的な信頼をどれだけ培うかですね。
黒川:はい。誠実に生き、誠実に作り、誠実に売り、誠実に頭を下げるっていう、本当にお天道さま=インターネットに恥じないこと。
福田:「ちゃんとやらないと」っていうことですね。インターネットだから、神様よりかかなり正確に見られちゃっているし。
黒川:そうですよ、神様はちょっとくらいは目をつぶってくれる気もするけど、インターネットは目をつぶってくれませんからね(笑)
福田:結局、黒川さんがご著書で書かれていた「本質の時代」ってことですね。誠実さに尽きると。
黒川:そう、結局は本質に戻るんですね。でも56年周期の中で、また虚飾の時代は来ますよ。でも今は「本質の時代」ですね。でもそうやって、トレンドだけではなく、テクニカルの必然も一緒にくっついてくるから時代を読み解くのは面白いです。
福田:ありがとうございます。本当に面白いお話でした。またぜひ、時代の空気を教えてください。
黒川:ぜひ。こちらこそありがとうございました。
(了)
(前編へ)