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質疑応答編②~アート教育の未来を考える

デザイン経営時代のブランディング アートが変える新元号の社会

司会者:ありがとうございます。少し若い世代の方で質問がある方いらっしゃらないですか。

A-:お話ありがとうございます。非常勤講師として心理学を教えています。よろしくお願いします。最近、社会人サークルに出入りをしていまして、そこでもこれからの仕事はどうなっていくのかという話がよく出てきます。「人を助けること」「遊ぶこと」「考えること」という3つが残っていくだろうというお話ではあったんですが、大学教育を例にとって考えると、心理学とか教育とか哲学の分野の教育費はどんどん削減されている現状があります。教育の母体がなくなってしまうかもしれない未来に、「考える」という仕事が社会のビジネスとして残っていけるのかなと、ちょっと不安になりました。

福田:待機児童も、働き方改革も、今起こっている問題はもう全部、教育の話につながっていきますね。教育の話というのは、本来国がどのぐらいコミットメントするかに尽きるわけですね。
 例えば、「フィリピンは景気いいよ」と日経新聞に書いてあっても、実際、いってみてみると教育現場に全然お金がいかない。学ぶことが出来ない人が大勢いるんですよ。僕、先々週まで中国の深センに行っていたんですけども、深センは都市としての歴史がまだ40年なんですね。毛沢東が文化大革命やったのが1966年から77年までで、その間、教員はみんな辞めて農家になれという教えだったんですね。その子どもたちが今30歳前後で、初めて企業家として成功を収めています。彼らの両親は学校に行けず、文字も読めず、貧しい暮らしをしていたので、初めてリッチになった世代なんですね。でも1978年、鄧小平が改革開放路線を打ち出しました。これは鄧小平が日本に来日した時にトヨタなどの工場を見て、「隣国がここまで発展を遂げているのに、みんな農業やれなんて言ってる場合じゃない」ということで、体制も外交も、中国は社会が変わったんですけども。でも、たった40年ですから、まだアートもなければデザインもない、ただお金儲けだけの状況なんですね。
 深センを見ると、いかに政治と教育が大事なのか分かりますね。でも日本にいると、会社勤めの人はとくに自分たちで税金を払っている感覚がないせいか、政治も教育も自分ごととして捉える人が非常に少ない。元東京都知事の猪瀬直樹さんがご著書に書かれていますが、サラリーマンは企業からトップオフ(戦時中の法改正で戦費調達のため納税者を個人から企業に変えた)されて、手取り収入だけをもらっているから納税意識が希薄だと。政治に参加している気持ちが全然沸かない税制構造なっているんですよ。自営業の方みたいに自分で税金を払いに行くとまた違うんでしょうけども、それがない人が大多数なので、政治に民意が全然反映していないんですよね。だから税金も、好き放題に使われてしまっている。
けれど僕らは幸か不幸かこの国に生まれて、いつの間にか税金を払う限り日本人であるという定義なので、ここで生きていかなきゃいけません。やっぱり政治に対する意識を高めて、教育、特にサイエンス。これだけいろんな学歴分野でノーベル賞受賞者が活躍しているのに、その予算も削減されて、防衛費の増大をしていくようなことを許しちゃいけないんですよね。  ここであまり政治的な話をするのも違うかもしれませんが、でもアートってやっぱり、反権力であって、リベラルなものですよね。そういう両極があってこそ国に緊張感があって成り立つものではないのかと思います。企業の使命って、社会にどう参加して、それがどう循環して回っていくかじゃないですか。僕は大阪生まれですから、「人にお金を払っとったらええよ」って、いろんな人に言うんですよ。なぜなら、それでお金が循環して回るからと。でも今はそういう感覚がすごく希薄だから貧富の差は拡大するし、お金を持っている人はみんなシンガポールに行ってしまうし、日本の教育は空洞化するし。だから今、本当に最悪の状態だと思います。税制構造は簡単に変えられなくても、みんなが問題意識を持つこと。それ以外、変えていく理由も方向も見つからないんですよね。だから僕もものすごく絶望していますけども、この絶望も希望と同じコインの裏表で、一度どん底まで絶望しないとよくならないんじゃないかなと思っています。

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