「面白がる力」を取り戻そう
福田:三谷さんのおっしゃることはすごくよくわかるんですけども、日々生きてる世界って、とても俗人的なものじゃないですか。理屈が通じないとか、世間や上司からの圧とか、不快とかで成り立つものが多いじゃないですか。 ひとつの気づきも偶然気づくのではなくて、ある基礎的な訓練とか、三谷さんの「ビジネス書ばかり読んでいたら先輩と意見がかぶってヤバいと思った」とか、ピンときたことがいくつか散らばって、それがピタッとつながったとき、何か発想が湧いてくるんじゃないかと思うんですけど。今、社会人向けにも教えられておられるそうですが、子どもに教えるときと、どういう教え方の違いがあるんでしょうか? 教える側からいうと。
三谷:基本は同じですね。私の教え方は、まずみなに「失敗させる」ことが多いです。ノーインストラクションで課題をやってもらいます。当然、多くは失敗します。で、失敗した後にインストラクションをしてから「じゃあもう一回やってみよう」と同じような問題を出す。
福田:そうすると、身になりますね。
三谷:身になりますね。でもそこまでやらないと社会人はアンラーニングできない、とも言えます。「あぁ、自分はそういうことが出来てないんだ」とか「こんなことにこだわってるんだ」とことがわからない。方法論を教わって、それで課題をやれといわれたら、成功しても「うまくいった」で終わりですし、うまくいかなかったら、その方法論が悪いんだとなっちゃう。でも、最初に失敗していたら、それ以降はちょっとはよくなりますよね。0点だったのが20点取れたみたいな。でもいきなり20点だったら、「これはダメだ」って思うじゃないですか。
福田:新卒から退職まで40年間も、会社からテーマ与え続けられていると、どんなにすごい才能や期待を持ってきたって忘れちゃいますよね。3カ年計画、来月の売り上げがどうとか。働き方改革や、人生100年時代で「じゃあ自分も辞めて新しいことやろう」という人が大量に出てくるかもしれないんですけど、それには「待てよ」と言いたいですね。だって定年まで勤めて、「よし、これからやりたいことやるぞ!」っていったとき、テーマを与え続けられているだけだと、ほとんどの人がやりたいことは見つからないと思うから。そういう人たちばかりを集めて、今後どうやって生きていったらいいかという授業を三谷さんがされるとしたら、どう教えますか? 前述の「何をしたらいいかわからない」っていう大学生の質問もそうですけど、人間の興味をどうやって引き出すんだろう、と。大企業に勤めて、退職金とかで老後の資金はあったとしても、「面白がる力」みたいなものは、どっかで落としてきちゃったままの人たちに対して、ですよね。
三谷:そういう人たちには「一度、子ども向けに何かを教えてみたら」と話しています。それの何がすごいかというと、子どもに教えるときに肩書なんて何の役にも立たないから。そりゃイチローとか話題のアスリートだったらOKですよ。でも、サラリーマンが肩書やら「今までこんなことをしました」とか実績をアピールしたって、 子どもたちには何にも響かない。教えることや教え方の面白さで勝負するしかない。
福田:確かに、それいいですね。僕のオフィスにリタイアされた方が訪ねてこられるときって、やたら自分の今の肩書を語るのを申し訳なさそうに仰られるんです。フリーランスで働いた経験がある人間からいうと、そこで謝られる理由はあんまりないんですよね。あと、企業の方の多くが、自分の組織の構成から説明を始められるんですよ。「何人の部長がいて、こういうポジションにいて」って。自分を語るのに組織から語るというのは、やっぱり経年劣化という印象があります。長年サラリーマンをやってると、どうしてもそうなっちゃうんでしょうか。