人民服を着て、でたらめ中国語を話す
鬼塚:まず行ってみたかったのは南京ですね。それから、毛沢東の故郷として知られる長沙(ちょうさ)。
福田:はい。
鬼塚:毛沢東については、「この人いったい何者だろう?」と。そのころから本にはいろんな刺激を受けていたんですけど…。日本では『毛沢東語録』(平凡社ライブラリー) として知られる『毛主席語録』*は今もこのオフィスにあるんですけど、この語録だけで10億人もの人を動かしたんですよね。
*中国共産党中央委員会主席・毛沢東の発言や著作の引用などを集めたもので、1966年に林彪・党副主席兼国防部長によって編纂が命じられた
福田:たしかに。面白いですよね。
鬼塚:テレビだって、1億人を動かしたってことはないですよね。テレビができることはもちろんありますけど、根底そのものを動かすことはない。けれど本は、人間の根底そのものを動かしますよね。聖書にしろ、毛沢東にしろ。
福田:面白い。そして実際に、当時の鬼塚青年は旅に出たと。
鬼塚:はい、行ったんですよね。そしたらもう、衝撃ですよね。今でこそ福田さんも、「中国はすごい」とおっしゃっておられますけども、買い物をしたら釣銭を投げつけてくるんですよ!
福田:いやぁ分かりますよ。この間まで、皿を投げつけられていました。近代化したのは、ここ1-2年じゃないですか?
鬼塚:ですよね。で、当時は釣銭を投げつけられて、それがテーブルから落ちて、見ると鳥の骨とか人の痰とかいっぱいあるんですよ。それを拾うのって屈辱感ありますよね。
福田:分かりますよ! 確かにみんな、パッパパッパね、骨を捨ててましたよね。7、8年前。
鬼塚:夏は、ヒマワリの種を食べながら、上半身裸で歩いていましたからね。いわゆる北京ビキニですよね。その当時は中国で外国人は、「人民元」ではなくて、「兌換元」しか貨幣が使えなかったんですよ。でも兌換元だと5倍くらいレートが高かったんで、「これはまずい!」と思って人民服を着て…。
福田:うん、結構いけそうです(笑)
鬼塚:人民服を着て、筆談しながら、でたらめな中国語をしゃべると、人民元が使えました。中国っていろんなところからいろんな人が集まっているので、方言だらけだから多少でたらめでもバレない。それで、1日200円くらいで生活していました。