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「エビ騒動」に巻き込まれる

デザイン経営時代のブランディング 旅だけが ”本当”を教えてくれる ~名物作家の世界放浪記~

福田:そんなに? 1年も?

鬼塚:イスラエル人って、とにかくすごい人種だと思います。競い合っているわけじゃないんでしょうけど、いろんな生活とか、ものに対する集中度とか。イスラエルという国は、周りは敵ばっかりなんですよね。

福田:そうですよね。もうユダヤ人だけですもんね。

鬼塚:イスラエルってイラン人がメインで、彼らは戒律を守ってはいるんですけども、そこにロシア系のユダヤ人とか、アメリカ系のユダヤ人とか…アメリカ系でも南部のユダヤ人、北部のユダヤ人、ニューヨークのウルトラオーソドックスからリベラルから、いろんな人がいるんですよ。それでユダヤ教の戒律も、一部では次第に弱まっていったと思うんですよね。で、私が住んでいたところは、テルアビブの近くだったんです。テルアビブって商業都市で、宗教的な性質の強い都市は、エルサレムの方だったんですけど。テルアビブはチャイニーズレストランができはじめたところで、ユダヤ人がチャイニーズの味を覚え始めました。

福田:そうなんですね。

鬼塚:チャイニーズレストランの特徴はエビなんです。でも聖書には、「甲殻類、つまりエビを食べてはいけない」って書いてあるんですよ。だけど戒律に忠実でないユダヤ人はエビを食べ始めたんです。ここで少し解説ですが、周辺のアラブ諸国は政教一致ですが、イスラエルは先進国を指向しているので政教分離なのです。だから聖典で禁止されていても法律では禁止されていない。で、みんな「こんなおいしいものが世の中にあったのか」って気づき始めた。それで、私のボスのユダヤ人は、「これからエビはものすごい儲かるぞ」と思ったんでしょうね。そのとき、私はある家族に雇われて仕事をしていたんです。

福田:商売人でもあるわけですね。ユダヤ人ですから。

鬼塚:基本的にイスラエルって、保護貿易主義なんです。関税が高いから、輸入しにくい。で、私を雇ったユダヤ人のボスが、エビを輸入すると関税がかかるので、エビの養殖場を作ろうと言い出したんですよ。で、彼がいろいろ調べてみたら、エビの養殖にもっとも長けている国は日本だとわかって、で、私が呼ばれて「エビの養殖の研究をしてみろ」って言われたんです。私はすぐに友だちに電話して、日本にあるエビの本を全部送ってくれって送金して、エビの養殖の本が段ボール箱にたくさん送られてきました(笑)

福田:それで、エビについてマスターしたんですか?(笑)

鬼塚:本を読んだだけで、イスラエルでエビの養殖ができるかできないかなんて、やってみないとわからないですよ(笑)。でも、部屋を提供してもらったり、飯を食わしてもらったり、給料もらったりしていたから、レポートを書かなきゃならない。ボスがわかりやすいように、可能性について「Maybe」とか言いながら、「possible」と伝えたんですよ。そしたら、「じゃあおまえやれ」「年収800万で、エビの養殖場だぞ、ブランド作るぞ」とか言い出して。自分はただのヒッピー旅行者だし、「やっぱ、それはできない相談だよ」って追い詰められていきます。

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