「宗教の正体」を知りたくなった
福田:それはなかなか、すごい体験をされましたね。
鬼塚:ええ。そのことがあって、「なぜ人は宗教によってつき動かされるんだろう」ということの正体が知りたくなりました。
福田:なるほど。で、そこからの旅はどうしたんですか。
鬼塚:インド人はヒンズー教徒が多いんですけども、プロレスラーのタイガー・ジェット・シンみたいに頭にターバンを巻いている宗教徒たちが多くいる、インド北部のアムリッツァにあるシーク教徒の総本山「ゴールデンテンプル」に行ったんですよ。そこはシーク教を学ぶ人であれば、宿も飯もタダで提供してもらえるんです。そこに行って、シーク教の勉強するために2週間くらい滞在しました。朝昼晩3回お参りに行って、そこのお寺が運営している図書館のようなところに勉強しに行って…。ずっと勉強したり、話を聞いたり、調べたりしていたんですけど、まぁ、正直、共感しはしなかったですよね。ヒンズー教とイスラム教を足して2で割ったようであったし、国同士、宗教同士戦っていましたから。結局それで2週間の勉強を終えて、次は「西に行くしかないな」と思ってパキスタンに行って。で、パキスタンに行ったら、もうみんな、インド人の悪口ばっかり言うんです。まあ、だからインドとパキスタンはもともと同じ国だったのに、宗教の違いから衝突し、分離したわけですからね。1500万人ほどが亡くなったそうです。まあ、それはイギリスの統治がだめだったということもあるんですけどね。それで次いでイランに行って。
福田:パキスタンとイランでは、また宗教も違いますよね。
鬼塚:パキンスタンはイスラム教のスンニ派で、イランはイスラム教ではあるんですけどまた別のシーア派なんですよ。イランに入った瞬間、「Down with USA」(アメリカくたばれ)って、大きな標語があちこちの壁に描かれている。物騒でした。雰囲気が一変しました。そのとき、持ち物の検閲があって私は林真理子の小説を没収されました。著者近影がスケベだって説明されました(笑)。イランでは女性の髪は夫以外の男性に見せてはならないものなのですね。だから、林真理子の写真は男の興奮を誘う、と検閲に引っ掛かりました。いくら抑圧されていてもそれはないだろうと思っていたら、そんなこと、あったんです。
福田:あったんですね。
鬼塚:ザへダンという町でイギリス人の女性と知り合い、レストランに入ったら、一番奥に行けと言われて。行ったら陰気臭いところだったので、「テラスで食べたい」と主張し、そうしました。すると、周りに少年たちが集まってくるんですよ。少年たちは彼女の顔をずっと見ているんです。そして彼女が肉の串刺しを食べた瞬間に、目の前の少年の一人が興奮のあまり鼻血を出したんです。はて、何を想像したんだか…。だからと言って、イラン人をディスっているわけではなくて。話してみるととてもイラン人は優秀です。最近、アメリカはイランと戦争しそうになったけど、簡単には勝てないと思いますね。賢いし、根性あると思います。サッカーはスポーツではあるのだけれど、国の総合力を問われるようなスポーツだと思います。人口、リーグ運営能力、資金力などなど。イランはアジアで最も世界ランキングが高いですからね。これはすべての国に言えるけど、日本が見下しそうな国に実際に行って見ると、かなり優秀な人たちだと実感しました。特に、インド、イラン、韓国、ベトナム。日本人が優秀だというのは幻想です。勤勉だとは思うけど優秀ではないと思います。
福田:よくわかります。日本はもう、先進国ではないと思いますよ。
鬼塚:日本では当時、「ホメイニ*は悪の権化」のように言われていましたけど、イランの町中のあちこちに飾られていたホメイニの肖像写真はすごく美しいんです。すごい人格者に仕立てられていて、「いやこの人すごいわ」って、写真だけで人を魅了していたっていうか、されましたね。で、テヘランのマシャッドにあるシーア派の重要なイマム・リダという廟に行ったんですけど、そこでも人が熱狂していて…。なんていうのかな。ますます宗教の正体が知りたくなりました。で、今度はスンニ派の総本山行きたいと思って、サウジアラビア行こうと思ったんですけど、ビザが下りなくて行けなくて。
*アーヤトッラー・ルーホッラー・ホメイニー。イランにおけるシーア派精神的指導者、政治家、法学者
福田:へぇ。ビザが下りないんですね。
鬼塚:そうなんです。やっと今年になってサウジアラビアは観光者を受け入れるようになったそうです。で、バスでトルコに行って、そこからすぐイスラエルに行きました。イスラエルでは働きながら1年間滞在しました。