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帰国後は文無し・職なしに

旅だけが ”本当”を教えてくれる ~名物作家の世界放浪記~  Talked.jp

福田:すっごい世界1周ですね。アメリカ南米をのぞく世界1周。で、日本に戻ってきたんですか? 北海道になるんですかね?

鬼塚:北海道ではなくて、ハバロフスクから新潟に飛行機で帰ってきたんですけど。ハバロフスクでは鮭がとれるんですね。1匹が2~300円ぐらい。で、明日、新潟に帰るってときに塩漬けの鮭を5匹ぐらい買ってきたんですよ。これを新潟で売って、それを金にかえて、東京までのバス代にしよう。東京に行ったら親戚がいるしと思って。

福田:うんうん。えっと、旅の資金だった350万円は全部なくなっちゃったんですか?

鬼塚:なくなりましたね。3~4年くらいの間ですね。

福田:しかも、その旅でめちゃめちゃ生活力ついてますからね。

鬼塚:(笑)。何があっても死なない。

福田:と、いうのが分かったんですよね。麻原彰晃にも会ったし。

鬼塚:そうなんです。で、ロシアで意気揚々と鮭を買って、それを持って新潟駅に着いたら、もうびっくりして。道はきれいに舗装されて穴なんて1つもない道路に、バスが音もなくスーッときてドアが自動的に開いて。うわーこれはすごいと思って。日本にいたら当たり前のように何気なく乗っているけど、ロシアなんて道は穴ぼこだらけだし、バスは手動が当たり前でしたし。

福田:ロシア帰りの鬼塚青年にとって、それはすごいことだったんですね。

鬼塚:すごいことでした。カルチャーショックでした。そして自分が買ってきた鮭なんか、日本のスーパーでは捨ててあるような鮭だった。「こんなの1銭の価値にもならない」と思って。なんだか夢みたいな話ですけど、結局日本に帰って、1銭も払えない身になって。

福田:しかし、すごい経験をされましたね…。

鬼塚:それが私の原点です。お金がないので就職しようと思い、バブルのとき、就職試験を受けたかつての企業にまた行って、「今なら入っても良いんですけどいかがですか?」って言ったら、「馬鹿野郎」(笑)。「今はそんな時代じゃないんだ。帰れ」みたいな。マジで怒られましたね。

福田:でも、行ったんですね。行くのがすごい。

鬼塚:もうしょうがなく。だから帰国後の東京の私の生活のはじまりは、深夜のガードマンですよ。たまに疲れて帰ってきた日なんて、涙が出てきましたね、俺は何をしているのかって。でもそれから元気が湧いてきて、俺の原点はここだって、這い上がるぞという気持ちになりました。でもいつか自分が失敗して、借金をこさえて自己破産しても、この原点に戻ればいいんだと思うようになりました。

福田:その感覚、よく分かります。僕もすべて失ったら、コンビニのバイト店員から初めてどこまでいくかなとか、いつも考えていますよ。

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