検索では出てこない「世界」
福田:起業してからも、本は順調にヒットしたんですか。
鬼塚:「自分のコンテンツを自分のまわりで」と思って始めたんですけど、案の定、売れる本がある一方で売れない本もありました。いっぱい本を作りながら、成功失敗を繰り返しながら今に至ったという感じですね。これまで、1,100冊くらいの本を作っているんですけども。年間では70冊ぐらいかな。
福田:今回の対談は「どうして出版する人になったんですか」っていうことの歴史でしたね。むちゃくちゃ刺激的。鬼塚さんの旅のお話があまりにも面白い(笑)。本の大事さを知るのに、いかに検索で知りたいことが知れないかってことですよね。病気や経済、イランで何が起きているのかとか。いや概要は分かりますよ。「国の面積は」とか、行ったことのある旅行者のブログとかは検索で出てきますけども、自分が本当に知りたい情報って分からないじゃないですか? それを教えてくれるのは、本だけじゃないのかなって思うんです。
鬼塚:本当にそうなんですよ。私たちのころは、有益な情報は新聞で教わりましたし。有能なジャーナリストの人たちはこぞって、「新聞を読め」と言っていたので、新聞を読みました。新聞を買わないやつはダメだと言われてね。新聞は、最低でも5紙。朝日、日経、毎日、読売、産経。でもそれも今思えば、それらも狭い幅の思考のなかでしかないんですよね。私は今、人民日報、朝鮮日報、朝日、ウォール・ストリート・ジャーナルを読みますが、外国の新聞を読むと思考の幅ががぜん違います。
福田:日本の新聞屋さんって情報量もないし。いやよく分かりますよ。
鬼塚:でも、よりよい情報っていうのは実を言うと、新聞なんかより、新書になると思うんですね。新書をよく読む人のほうが、今はやっぱり深い情報、いい情報を持っているんですね。話していて面白い。
福田:インテリジェンスレベルが高いですよね。「今は新書だ」とか、そういうことを誰も啓蒙しないし教えてくれないし。こんな言い方すると年寄りじみていますけど…。だんだん、インテリジェンスレベルの層は薄くなっていますよね。僕ら世代はまだメディアが少ないときに育ったから良かったんですね。徹底的に何かを調べようと思ったら、国会図書館に行くよりなかった。コピーをとろうと思っても、著作権の関係で何度かにわけて行かないと行けなかった。そんなこと、今誰に言ってもさっぱり通じないですよね。「ググればいいじゃん」って言われますけど。でも、グーグルには欲しい情報なんてほぼないっていうことを言わないと、もっと深い参考書があるんじゃないかっていうことが分からない。これ、いつも言うんですけどITの後輩に面白い話をすると、次の日に連絡があって、「ググったけど福田さんから聞いた話は出てきませんでした」って。そりゃそうですよね。グーグルでわかることが世界の全部だと思っちゃったら、イスラエルの先には本当は何があるなんて、誰も分かんないでしょう。今、みんな旅行に行かないっていうじゃないですか。でも旅行にも行かずに、世界なんて分かんないですよね?
鬼塚:私は小学校から大学まで学んだ経験よりも、旅に出た4、5年のほうがはるかに勉強になったと思っています。
福田:絶対そうですよね。だからリベラルな人って、ほとんど旅をしている人ですよね。僕は韓国人と中国人の友だちが多くいるので、国同士の争いに対しても、それとは分けて考えることができます。
鬼塚:きっかけがないと、難しいのかもしれないですね。まず韓国に行って、韓国の人たちと話をする。すると新聞ではこんなに悪く言っているのに、実際に会ったら韓国人ってみんないい人が多い。そこで、「じゃあメディアが書いているのは何なんだ?」っていう疑問がないから、書かれた情報を鵜呑みにしちゃうんじゃないですか?
福田:そうかもしれないですね。日本はまだテレビのメディア力が強いから…。「右か左か」っていう二元論じゃないですけども、世界的にライトウィング(右傾化)になってきたんですよね。だからそこに分断が起きちゃうので。もうこの特効薬は旅をする以外、僕はないと思うんですよ。