上げるか下げるか流すか。 TPOに合わせたリスペクトコーデ
福田:鷹鳥屋さんはアラブの民族衣装をお召になっていますけど、そのこと自体に何かクレームがくることはない?
鷹鳥屋:ちゃんと着ている分には文句はそんなに言われないですね。拒否反応をむちゃくちゃ示したのは、日本人とか外国人でした。彼らのほうが、「ノーリスペクトだ」とか、「そんな恐ろしいことやって、何かトラブルに巻き込まれたらどうする」とか言われたり。でも、これに近い格好をしているシリア人とかヨルダン人とか、パレスチナ人でキリスト教徒、キリスト教徒以外の宗教の人たちもいるわけですし。例えばコプト教徒とか、そういう宗教の人たちとかもいるんですよ。その人たちがこの格好をしていても、そもそも全然問題ない。ただ以前、フィリピンのとある市長がハロウィンでこの民族衣装を着てパーティーでお酒を飲んでいたことが問題になって、ニュースになったことはあります。
福田:そこがポイントなんですね。
鷹鳥屋:はい、どれだけちゃんと着ているのか、リスペクトしているか、です。例えば私の額のところの生地ですが、真ん中が上にちょんと出ているのが分かりますか? これをちゃんとしていると、「あ、こいつ、着方分かっているな!」となります。別地域ではこれを下向きにすることが多いとか。サウジアラビアは大体が上にちょんと出します。いろいろな国家元首の写真を全部見ると、下げるか上げるか、たまに流すか、ちゃんとオシャレしていますね。
福田:えーと、上げるのが……?
鷹鳥屋:地域差はありますが、上げるのはシュマッグ(赤白)が多い印象があります。もちろん谷折りにして下げる人もいますが。あとは「首元のボタンは2つ」というのがサウジです。ボタン1つだったらクウェート。襟付きだったらカタール。襟なしだったらUAE。
福田:それぞれにお作法があるんですね! でも、よく考えたら日本にだってありますもんね。
鷹鳥屋:そうです。私がいつも言うのは「着物の織でいうところの西陣や結城紬などが全部違うのと同じように、それぞれ変わります」ということ。例えば赤白のターバンでこの格好なのに、ボタンが1個だったら、「こいつ、コーデがずれてるな!」って分かるんです。頭の黒い輪っかは「イガール」というんですけど、紐が2本出ていたらカタール。2本出ていて1個に結んでいたらアラブ首長国連邦。で、なかったらサウジ。でもこの目が荒かったらクウェートとか、本当に全部違うんですよ。私は家に70着、全部持っているので。サウジを50着ぐらい持っていて、UAEが7着、カタールが3着、オマーン3着ぐらいかな。
福田:すごいですね! 普段はサウジでも、オマーンなんかのときは……。
鷹鳥屋:全部、変えます。
福田:一応持っていこうかみたいな。京都に行くときに「着物着ていく」みたいな感覚ですね。
鷹鳥屋:そうです、京都。でも例えば博多とかだったら、博多に合わせようとか。結城のほうに行くなら結城紬コーデで。奄美だったら奄美手法で始めるとか。そういうことです。筋を通して格好を着るならば、絶対この格好で豚肉は食べないですし、酒と一緒に写真には映らない配慮をする、などのルールは絶対ですね。遊びで「ハロウィン用に貸して」と言われてもほとんど断りますね。ハロウィンのときは、むしろ私は日本人のコスプレをしていますから。スーツを着て(笑) そうするとみんな、一瞬誰なのか分からくなるみたいです。この格好を脱いだときに「やぁ」って言っても、ようやく3秒ぐらいして、「あ、鷹鳥屋さん」と。いかに人が着ているものに目がいくか、というのが分かりますよ。いや、私自身の影が薄いのかもしれませんね(笑)
福田:衣装のインパクトが強いから。そんな鷹鳥屋さんが日本でアラブの格好をしたり、思想やお話をしたりすることによって、日本人にいいエフェクトを与えている部分はなんでしょう?
鷹鳥屋:ステレオタイプを溶かすというところですね。要は、この格好をしていると大体言われるのが、石油王かテロリストなんですよ。この振り幅!
福田:みんな発想が貧困ですね(笑)
鷹鳥屋:そう、この貧困さと振り幅の偏りをもうちょっと真ん中に寄せたいな、と。それこそ私は、王族から貧困層まで、すごい振り幅で接しているわけですから。向こうに駐在してショッピングモールと会社とコンパウンド(家)を行き来しているだけよりは、はるかにディープな世界を見て、そこで得た知見を共有することによって理解度を上げたいと思っています。貧困な理解は外国人が「日本は侍と芸者の国だろう」と言っていることと、そうそう変わりません。そこをもう少し寄せていくための知見がないと、外の世界に出たり、何かに接したときにトラブルになったり、「この人は教養がないかも」と思われてしまいます。歴史学専攻の人間だったので、もっと日本人の持つアラブ感を底上げしたい。そういう気持ちがあります。