地図中心は、サウジアラビア
福田:アラブの偏見をなくした次のステップとしては、ビジネスですね。例えば永井豪先生作品をキーとして、「アニメコンテンツの需要はあるかも」という感じはありますけど、その他の分野って何だと思われます?
鷹鳥屋:私のキャリアのスタートは日立製作所というところですが、日立製作所、商社、外務省の外郭団体職員と、いろんな業界のいろんな業種を見てきました。それでいうと白物家電は完全に死んでいて、今は車がギリギリですね。
福田:EVはどうなんでしょう?
鷹鳥屋:EVの浸透はまだまだこれからかと思います。石油の国ですから、まだですね。
福田:でもすごい太陽パネルの配置された映像を見ましたよ。転換が早いなと思って。
鷹鳥屋:それはじつは国内電力を賄うための発電がメインで、太陽光パネルだけでなく原子力発電所も作っていますからね。テスラ社の車両や電気自動車をたまに見かけますが、まだ試験的な印象があります。もしかしたら私が現地に行っていない2年でガラッと変わっているかもしれませんが…
福田:そうなんですか。感覚的にEVは、「今の自分たちの商売を脅かす」みたいな脅威はあるんでしょうか。それとも全く感心がない?
鷹鳥屋:アブダビやサウジの一部の都市には、筑波研究学園都市みたいなものが一応あります。そういう中ではEVのような車両を走らせてはいますけど、どちらかというと、ゆりかもめ的なもの、鉄道とかメトロのような公共交通機関の拡充が課題だと思います。かつてはトルコのほうからヒジャーズ鉄道とかありましたけどね。第一次大戦中にロレンス(*4)が爆破しちゃって、その後再建されていません。今はもう鉄道の斬首しかもう残っていない。
福田:なるほど。現代の若者は、ロレンスをどう見ているのですか。もう全然知らない?
鷹鳥屋:映画の影響で有名ではあり、国によって変わりますがどちらかというとそのあとの「フサイン=マクマホン協定」(*5)とか「サイクス=ピコ条約」(*6)の、「英仏許すまじ」みたいな感じのほうがもっと有名ですね。アラブ側からするとロレンスは英雄とは言えないのでは……。彼が活躍した場所は、結局ヨルダンとかパレスチナとか、あっちのほうなので湾岸アラブ地域では影が薄いかもしれませんね。ロレンスの話して盛り上がるよりかは、自国の建国の王族の話の方が盛り上がりますね。
福田:面白いですね。やはり地球儀は自分が居る場所から見ないとだめですね。昔、ソビエトにはソビエト中心の世界地図が貼ってあったと言われても、そんなの誰も見たことないですから。なんかソビエトの周辺にアメリカがあって、ハワイがあって、日本もあって、中国があるみたいな。すごいなと。
鷹鳥屋:中東の地図を見ると、サウジアラビアがセンターにあるので、それもまた面白いです。
(*4)…イギリスの考古学社、作家、軍人。別名アラビアのロレンス。第一次世界大戦勃発後、トルコ圧制下のアラビア民族の独立運動を支援し、オスマン帝国に対するアラブ人の反乱(アラブ反乱)を支援。映画『アラビアのロレンス』の主人公のモデルとして知られる
(*5)…第一次大戦中の1915年に、エジプト駐在のイギリス高等弁務官マクマホンが、オスマン帝国の支配下にあったアラブ地域の独立と、アラブ人のパレスチナでの居住を認めた協定。しかし、大戦後に実行されず、さらにイギリス外相バルフォアによる、ユダヤ人のパレスチナ回復・祖国建設を目ざした運動支持表明の「バルフォア宣言」などとの矛盾が、現代の中東問題の素地となったとされる。
(*6)…第1次世界大戦中にイギリス、フランス、ロシアの3国が、大戦終結後のオスマン帝国の領土分割や勢力範囲を取決めた密約。イギリスの M.サイクス、フランスの G.ピコ両代表が協議して原案を作り、ロシアを加えて締結された。しかしこの秘密協定は翌年ソビエト政権によって暴露され協定は結局実現されなかった。