台帳方式は「過去に縛られるもの」
福田:ここまでまとめると、ブロックチェーンはいろんな問題があったにも関わらず、歴史の教訓も生かさずメジャーになってしまった。それなのに「今それをやってないなんて時代遅れ!」くらいに言われちゃったわけですけれども、いずれ「そんなセキュリティも甘くて使い勝手も悪くて、こんなものはダメだ!」となる、ということなんですね。
中村:とある政府筋の方から、「中村さん、僕はずっと迷っていて分からないことがあるんですけど、ブロックチェーンは安全なんだよね? でも安全だったら、なぜ毎日のように盗難の報道があるんだろう。安全だったらそんなことないはずですよね? どう思いますか?」と。「それは安全じゃないでしょう」っていう回答なんですけど。
福田:アハハ!
中村:ええ、安全なら事件は起こらないですよね。「レッジャーシステム(台帳システム)で完全暗号を使えたらもっと安全になるんじゃないですか」「そういうのを作ってもらえませんか?」とよく言われるのですが、反対に「本当にレッジャーシステムを作りたいですか?」というのが私の質問です。確かにできるかもしれません。しかし貨幣というのは、例えば通信が途切れたところでも使えなきゃいけないでしょう。山の中とか、あるいは災害時とか。災害時にインターネットがつながりません、お金を使えませんとなったら困っちゃいますよね。そういうことがないのが500円玉や1万円札のいいところじゃないですか。それと同じことをやるためには、やっぱり貨幣でなければ駄目なわけです。つまり、渡した瞬間に価値の移転が行われるのが大事。ということは、もし私が福田さんに1万円札を渡したら、そのたびにわざわざどこかの台帳に書きに行って公表したりしませんよね。
福田:ネットワークで確認し合うのは逆に不便すぎますよね。
中村:わざわざ書く必要がない。大事なのは、現物があって、現物を渡したという事実だけじゃないですか。もちろん「もらってないよ」と言われるといけないので領収証を書いてもらったりしますけど、ここで完結します。これが「ウォレット to ウォレット」です。何も、他の人を強要してみんなを巻き込まなきゃいけない理由は全くないです。地球の反対側の子供がキャンディーを1つ買った事実を世界中の人々が自分の台帳にも記入しなければならないなんて。価値の移転というのは、二人の間だけでできなければおかしいわけですね。なので、それをやるのがクリプトキャッシュだということです。
福田:クリプトキャッシュは、暗号化された固有のナンバーを刷ってもいいし、インターネットで流通させてもいい、ということなんですね。
中村:はい。仮想通貨(暗号資産)にはほかにも問題があります。仮想通貨は今や国の電気を食いつぶすくらいになっています。もし私がビットコインを持っていたら、私のパソコンの中にも全世界の、全員の取引が入っているんですよ。データは毎日毎日急速に増える。それが1000万台も2000万台もあるわけです。「あと5年もちますか?」という話です。もちませんよね。ということになってくるので、台帳方式というのはものすごく難しいんです。 これについて私は「過去に縛られる」という言い方をしています。「過去のデータにもし不正があったとしても調べられるから、ハッシュチェーンは安全ですよ」という説は、たしかにそうかもしれません。そんなに簡単なことではないですが、調べることはできますよ。しかし、あとで直すことは極めて難しいのです。このように過去を全部引きずっているわけですから、ビットコインの場合で言うならば2009年以降永久に、これからずっと、ハッシュチェーンが使われるなら履歴が残っていくわけですね。
福田:大変なことですよね。
中村:はい。でも、福田さんの財布に入っている1万円札が、おとといどこから入ってきたかは、ご存じないですよね。
福田:全く分からないです。もらった瞬間だけ、誰からかしかわからないですよね。
中村:一瞬ですよね。中に入れた瞬間に、もし一万円札が3枚あったら、どれだったかも分からないですよね。つまり、現金というのは現在形です。取引が終わってしまえば、もうそれでいい。取引の記録は帳簿などに残っているにせよ、基本的には現物が大事なわけですよね。ということは、どこかに何かが書かれている必要がないとすれば、それはものすごく小さいシステムでいいという話になる。過去を引きずらない。過去をすべて残して政府にずっと見張られているデジタル人民元と、ここにある1万円札、「どちらがいいですか?」と言われたらどうですか?
福田:今、中国人のお金持ちが現金を集めているという現象の意味が分かりますよね。
中村:はい。どなたにとっても、やっぱり現金のほうが魅力的です。