イーサリアムのどこにも、トークンなんてない
中村:先日、著名な茶道の家元に色紙を書いていただいたんです。けれど正直私は、そのありがたみが分からないわけですね。でもその流派の茶道のお弟子さんたちは、その色紙を何万でも出すから譲ってほしい、とおっしゃる。価値観の違いというのは、こういうものなんだなと思いました。
福田:アートにはそういうところがありますよね。
中村:そうなんですよ。ですから、コミュニティの中では「これはすごい」という価値観を共有していらっしゃるから、その人たちにとっては尊く素晴らしく、高価なものでいいと思うのですけど、私のような人間にとってみれば分からない。
福田:今のNFTアートが行き過ぎてしまっているのは、リアルで素晴らしい価値のある絵を描いた人が、「デジタル化してNFTにすれば売れるのですか」という問い合わせが多くなったことです。それは本質的な需給関係と無関係な話なんですよ。
中村:そうですね。簡単に「セキュリタイゼーション(証券化)ができる」と言っているだけだと思うんです。会社の株等を証券化するのはみんなでそれを共有してもらえるということなので、その点ではいいことなのですが、そこの定義とか、証券化した物がちゃんとあるかどうか、ということをしっかりするためには難しいことが多いんです。それを「イーサリアムでできる」みたいなことを言い始めてしまう流れになったのですが、でも正直に申し上げると、できないわけですよ。イーサリアムのどこにも、トークンなんかない。 「ノンファンジブル(代替不可能)のトークンって、どうやってイーサリアムで作るんですか?」と、イーサリアムに関わっておられる方々に聞くわけですけど、もちろん答えなんかないですよね。「トークンはないんです」という話なんですけど、だとすれば、まやかしですよね。ある種の著作物がある。これを証券化したいんだけれどデジタルは有体物じゃないので所有権はない。そこで著作権みたいなものに注目して、証券化を真似て、トークンというかたちで、各自バラバラで持っていただいていますという考え方は素晴らしいと思うけど、イーサリアムでは技術的にできない。ですから、ちゃんとした証券法に基づいた証券化をやるべきだと思います。
福田:これ、イーサリアムで仕事をされようとする方は、むちゃくちゃ大事なお話です。衝撃的な話ですよ。もう、「持ってるイーサリアム、売らなきゃ」って思うくらいの……濃い情報です。