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石川県七尾市の地域通貨実験

暗号貨幣から「経済の多層化」社会へ(後編)   Talked.jp

福田:今、ある種の濃いコミュニティを作ろうと思っている人たちが、その中の流通としてクリプトキャッシュを作りたい、と思ったら、容易に作れるものなのでしょうか?

中村:今は一般の申し込みは受け付けておりません。まだ実証実験の段階で、この間は石川県七尾市で行いました。和倉温泉という有名な温泉地で、非常にお魚のおいしい所ですが、七尾市はインバウンドが減ったんですよね。その分、七尾の魅力を多くの人たちに知ってほしい。そのときに地域通貨というものが使えるんじゃないかということで、金沢大学と組んでそういう実験を始めました。里山里海の魅力を込めた地域貨幣「SATO」。2021年11月20日に行った実証実験が大成功だったのでテレビでも特集で紹介されました。今、日本全体で「そんな共同事業ができないか」という動きも出てきています。

福田:いいですね~。

中村:CO2の排出権の問題では、よく「アマゾンがまずいぞ」と言われますが、アマゾンと同じくらいのものを日本は持っていますよね。つまり、あの熱帯雨林に匹敵するものは海なんです。日本にはものすごく広い海洋があって、そこがCO2を大変たくさん吸収してくれています。

福田:考えたら、そうですね。

中村:はい。海を持っている以上、それをちゃんと資産化すると、「もしかしたら石川県の七尾市はものすごい資産家じゃないの?」ということなんです。そしてエネルギーもあります。エネルギーはどこから取るかというと、もちろん太陽もあって、風も吹いていますが、海の中の潮流を使うのであれば、波でもいいと思います。波はものすごいエネルギーですから。ああいったものを全部合わせるとエネルギーはいくらでもある。カーボンオフセットで経済も潤うかもしれない。「だったら“なぜ七尾市に住まないんですか?”というキャンペーンをやったらいかがですか」というお話をしているんですけども。

福田:すごいですね。サスティナブルな地球の一助になりますよね。

中村:七尾市に年の半分住んでいたら、その権利の半分をもらえることになって、東京でちょっとした自分のやりたい仕事をやって……という二拠点生活も夢じゃないですよね。そうすると、食べられない人ばかりじゃなくて、食べられる人がもっと増えるし、多様性につながるんじゃないですか。

福田:その実証実験は、固有のID番号を刷ったり、デジタルだったり、両方使った実験だったんですか?

中村:今回は貨幣だけです。デジタル地域貨幣というものを、世界で初めて発行したということですね。でも最初の1回だけは紙に印刷した「SATO」を前田利家公の銅像にお賽銭として支払いました。

福田:じゃあ、これからネットベースでやろうと思ったら、やっぱり専用アプリか何かを作ることになりますか。

中村:そうですね。無償のアプリを作っていくのかどうするのかというのは、今後まさに当局との相談をしながら進めていかなければならないわけです。マネーロンダリングを防ぐためにウォレットの中にどれだけ記録を残さなければいけないか、ちょうどそういう協議を始めたばかりです。

福田:そうすると、今年また次の実証実験を?

中村:実証実験は次々にやっていきます。やっぱり、1つ始めるといろいろな人たちが集まってくることが分かりましたので。

福田:そこに行きたいですよ! 次はどこでしょうか。まだ発表できないですか。

中村:ええ。それこそ、福田さんも私も大好きな沖縄でやりたいですね。

福田:やりましょう! 沖縄は最高なんですが、経済課題があります。オアフ島と沖縄本島は人口も広さもほぼ同じなんですよ。でも、経済格差が1/7なんですね。観光が目玉と言われていますけれど、単に景色の良いところへ行くだけのものではこれ以上の発展は見込めません。 これからは、新しい人と出会えるコミュニティや自然と触れ合うファーミングなど「自然観光」がキーになると考えています。沖縄科学技術大学院大学(OIST)など、多くのスタートアップも始まりました。ぜひ、沖縄に新しい経済圏を作るために、クリプトキャッシュの活用も試してみたいですね。

中村:はい。多くの人たちは、仮想通貨(暗号資産)がもたらすかもしれない世界に憧れて、新しい通貨を作ろうとしている。しかし現在の技術ではうまくいかない。ブロックチェーンという技術そのものを十分知らないで使っていらっしゃるだけですから、仕方がない。全然悪いとは思わないです。私たち専門家がしっかりしなければいけない。「きちんとした技術を使って、皆さんが実現しようとしている世界を作っていってください」ということを言い続けないといけないと思っています。つまり、事故や事件になったりしないようなものを。それは私たちの問題であって、使っている人たちの問題ではない。ただ、そこに可能性を見出したたくさんの人たちが集まってきて、自分たちでもいろんな貨幣は作れるんだとか、あるいは著作権であったとしても、証券化ができるんだとか、そういうことを考えられたのは素晴らしいじゃないですか。その勢いを止めてはいけないと思いますし、それをもっと進めていけば、中には世の中にとってなくてはならないビジネスやサービスが必ず出てきますから、それはやってほしいなと思うんですよ。

福田:このクリプトキャッシュがいいトランジションをして、もっと強固で豊かな社会を作れるツールになるといいですよね。

中村:そうですね。2000年くらいまで、あれだけデジタルキャッシュを作るという動きがあったのに、一気にしぼんでしまったあとでビットコインみたいなものが出てきたので、ここに光明を見た人がたくさんいるわけです。この光明をもっと明るいものにしていっていただきたい。

福田:やっぱりお金は人間が作った最大の文明の利器ですよね。このツールによって人類が発展してきた部分が相当大きいので、中村さんの新しい開発についても日常で使えるようになるよう、次世代の新しい経済のことを考える機会になればいいなと思います。今日はお忙しい中、本当にありがとうございました。素晴らしかったです。

中村:よかった。こちらこそ、ありがとうございました。

(了)

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