IT業界から見える、映画業界の課題①
福田:僕はもともと30代の時、ソニー・ピクチャーズエンターテインメントというハリウッドの映画会社にいて、映画を作りたかったんです。それこそ日芸で、映画サークルですし(笑) そうなんですけども、ソニー・ピクチャーズでは新規事業ばかり担当していました。その後、ソニーから出資してもらってソニーデジタルエンターテインメントというインターネットの会社をつくり10年社長をやりました。今はこの「スピーディ」というグループ会社を経営しています。だから、たまたまではあるんですけれども、放送業界とインターネット業界の両方を知ることになったんですね。 で、コロナになって、ITのデジタル業界では、巣篭もり需要と金利の低さが相まって、じつは「金余り」の状態なんです。だから成功しているIT経営者は、お金が余っていて、現代アートの購買、仮想通貨の投資、不動産へと流れている。IT経営者の世界では今、空前の「金余り」なんですよ。世界中そういう潮流で、ITの人しか儲かっていないのが「今」なんです。
照屋:お金が余っている……。そうなんですか!?
福田:全体を見ると、そうなんです。デジタルの世界に関わる一方で、僕は放送業界にも長くいるんですね。弊社所属の女優・のんも先日、『Ribbon』という映画の監督・脚本・主演を務めました。きっかけは、コロナで彼女の舞台の仕事がキャンセルになって、スケジュールが1カ月空いたことだったんですよ。でも本人は休むのではなくて「映画をつくりたい!」と言うので、試しに短編を撮ってみることを提案して。仕上がりを観たら、粗削りだけどなかなか面白かったんです。「これ、普通に長編劇映画で撮らない?」となったんですけど、そうしたら3日もしないうちに、今度は2時間くらいの、美大生が主役の長編の脚本を仕上げてきたんです。すごく面白い、いいものが出きたので、フジテレビ系のスカパーチャンネル「日本映画チャンネル」に相談したところ「ぜひ!」となって、公開に至りました。ミニシアター上映では2位(3月5日時点)になっています。
照屋:そうなんですね!
福田:で、何が言いたかったかというと……。ITの人たちはお金が余っている。一方でエンタメの人は、フジテレビに行こうが東宝に行こうが、予算をなかなか出してもらえない。お金はあるけれど、映画の制作予算には出してくれないんですよね。本当は、その人たちが本業でかかわるべきなのに。 以前は劇場で公開したら、WOWOWなどのテレビのペイチャンネル(有料視聴)に出して、DVD出してBlu-ray出して……と、「ウィンドウ」と言いますが、映画のウィンドウがいっぱいあり、1粒で数度おいしいリターンがあったんです。ところが、インターネットが出来て、そのウィンドウが崩れてしまった。リターンのあるものがなくなっちゃったので、グッズも売れなくなって、今は企業も映画の予算を出してくれない。でも、IT業界は、1日1億でも2億でもアートにお金を出す人がいる。何のリターンを求めているのかというと、ものすごく長期的なリターンなんです。 ZOZOの創業者の前澤友作さんが、64億円で買ったバスキアも高額で落札される筈です(*2022年5月、110億円で落札)。つまりお金持ちって、そうやってお金をまた増やしていくわけじゃないですか。
照屋:うーん! たしかに。
福田:それがいいか悪いかは別にして。そういう「余剰」「余裕」を、「じゃあゴリさんの新作に対して出資がしたい」となった時、素晴らしい作品ができて、海外でも賞をとって、人の心を打ったら……。出資した人は、それで満足だと思うんですよ。けれど本業でエンタメをやっている人たちは、あまりにも豊かな時代が長かったせいで、急に経済が落ちた時に、「そんなマイナーな題材で、元取れるのかよ」とか、「他にヒットした事例ないの?」とか、完全に、普通の、「日本のサラリーマンの企画会議」と同じになってしまっている。本当は挑戦しなきゃいけないのに。だから、吉本がやっておられる地域活性化の映画プロジェクなどは、素晴らしいですよね。