IT業界から見える、映画業界の課題②
照屋:そうなんですね……。僕らとしては、「映画を撮る、お金を集める=大変」というイメージでずっとやってきました。
福田:たしかに「大変だ」と思うのですけど、そこも「大変」と言っている、日本のエンタメビジネスの人たちが、本当に世界のビジネスの流れを見ているプロフェッショナルなのか、というところが大事だと思うんです。
今は本屋が減っているのと同じように、劇場も減っているわけですから、劇場とオンラインは同時公開だって僕はいいと思う。実際ディズニーは、「Disney+(ディズニープラス)」でそれを始めているわけですよね。
「オンライン公開を先に」と言った瞬間に、ITが経営する配信会社は「じゃあお金を出しますよ」となるんですよ。「何で売れない劇場公開のあとに、オレたちのところに持ってくるんだよ」「じゃあこれだけね」……ってなっちゃうから、「予算ない」サイクルがずっと続いちゃう。だから、これはもう産業構造を変えていかないといけないところなんです。僕は、その構造は作っていけると思う。エンタメ業界とITを結び付けることによって、それは叶うと思っています。書籍、配信ドラマ、音声アプリ。……今はいろいろなストーリーテリングの仕様が増えているので、1つの物語を考えたら、多様に収益を上げられる筈なんですよね。そういうシリーズをぜひやりたいと思うので、ゴリさんとも何か、素晴らしい映画をつくる機会があればいいなと思います。
照屋:わくわくしますね。でも、1億なんて簡単なんですね……。『洗骨』は、1億もかかっていないですよ。
福田:先日もこの「トークド,jp」シリーズで、ソニーの大先輩である北谷 賢司先生と対談しました。「なぜ日本の映画業界は衰退しているのですか?」と聞くと、「産業になっていないから」と。「でも、産業になってないのはクリエイターのせいじゃないですよね」……「いや、違うんだ。クリエイターも悪いんだ」「絵コンテが切れる映画監督何人いる?」というお話がすごく勉強になりましたね。
例えば、映画『下妻物語』の中島哲也さんのような、CM出身の監督は必ず「絵コンテが切れる」という土壌がある。けれど、テレビ出身の監督は、絵コンテを切れる人が非常に少ないんです。それはスタートアップの人たちの事業計画と一緒で、投資家にとっては中身が分かりやすいものである必要がある。よく「こんな面白い話があってね」「こんなキャスティングにしたくてね」という話だけでは、「面白いね」で終わってしまうけれど、絵コンテという設計図がしっかりあれば、あとで多少内容が変わったとしても、産業として投資がしっかり付く。
同じアジアでも、韓国はそういうことが徹底的になされているんです。でも日本は英語も通じないし、絵コンテも切れないし、現場で脚本が大幅に変わっちゃっても保険もかからない。産業として信用されるだけの土台がない、ということなんですね。日本がいきなりそこまでいけるかどうか分かりませんけど、「それがグローバルスタンダードなんだ」と分かれば、それはできると思いますし、ゴリさんのような素晴らしい映画監督と、ITの人たちをミートアップする機会はいくらでも作れる筈、と思います。
まず、日本から優秀なクリエイターを連綿と輩出してきたという、歴史的な事実はあるわけですよね、黒澤明から、小津安二郎から。そんなことって、他の国ではあまりないですよ。ということは、クリエイターとしてのポテンシャルはちゃんと高くて、ただビジネスのフレームがグローバル化していないだけなんです。