「知らない人と出会える」ビジネスモデルとは
福田:僕は関西出身なので、大学に入って上京した当時、東京は思った以上に緑がいっぱいあってびっくりしたんです。大阪は商人の街で商売人が多いでしょう。だから「緑なんて、スペースもったいないやん」「そんなん、商売の屋台にしたらええやん」ってことになっちゃうので緑が少ない、というのが僕の分析なんですけどね。これも商売人のわがままというか、都市計画の視点から見るとちょっと本筋から離れますよね。
水代:たしかに、そうですよね。
福田:だから「コントロールされた新しい都市の在り方は何か」といった時、東京でも「港区には増上寺に緑がある!」というとこまでカウントしないと、緑がまだ少ない。タワマンは住民視点とは関係なく、タテにタテに伸びていってしまうから、地域との接点がほとんどないんですよね。僕がいま住んでいるタワマンも、森ビル系の「虎ノ門・麻布台プロジェクト」のおかげでついに東京タワーが見えなくなってしまって、やっぱりタワマンは風景を消し去っちゃうなと実感しました。近所の人が子どもの学校帰りを見守ったり、女性の安全を見守ったり…っていうような商店街も失われてしまう。タワマンにはそういうテラス文化や機能って、じつは何もないと思うんですよ。
一方で、僕はコロナの三密を避けるために2020年の4月に沖縄逃げて、南城市というところでずっと暮らしていたんですけど、自然は素晴らしいものの、やっぱり人口密度が低いから、コミュニティはあっても都市で暮らすような興奮は少ない。落ち着くんですけどね。
水代:福田さんがおっしゃっていること、よく分かります。
福田:都心は田舎とは違って、書店や美術館、カフェや個性的なパン屋さんとか、そういう場所を通じて「知らない人と出会える」ということが醍醐味ですよね。水代さんのおっしゃるように、知的好奇心を満たす場、コミュニティの中で、人生のパートナーや親友と出会えることもある。田舎は知ってる人同士の結束は強いけど、知らない人と出会える機能はあまりない。これをどうやって活性化したらいいんだろうと思った時に、水代さんがお持ちのノウハウと考え方でじゃんじゃんやっていけば、麻布十番商店街の周りとか裏原宿とか、中央線沿いの荻窪や自由が丘とか、ああいう素晴らしい「ストリート」が残る「ストリート系新都市」がもっともっとたくさん生まれて、発展していくんじゃないかなと。
で、先程の話に戻りますけど、それを、一番そうならなさそうな丸の内近辺をコミュニティタウンにできてしまうっていうのはすごいです。水代さんは、世界的に画期的なビジネスモデルをつくられたんじゃないですか。
水代:福田さんはいつも、ビジネスサイド目線の鋭いご指摘をくださるのでありがたいです。
丸の内がよかったのは、B to B産業が多く頭脳が集積しているけれど、その分、「自分たちがやってきた技術とか今まで勉強してきたことが、どんなふうにお客さまに役に立っているのかが分からない」という方たちが多くいらっしゃった点です。僕らが過去に手掛けた、東日本大震災で被災して困っていた朝市のサポートについて、「震災ではこんなふうに頑張ってるチームがいます」ということをお伝えしながら、「一緒に問題解決しましょう」といった提案をすることでだんだんコミュニティ化していきました。例えば、僕たちがつくったNPOの決算を会計士としてコンサルティングをされている方にお願いしました。すると、そこの地元にある居酒屋にその方が行けば、いつもビール1杯目はタダになる。会計士の方にとっては簡単な業務なんですけども、そのスキルがいかに社会に役に立っているのか可視化できる。すると一気に、お互いがお互いの足りないものを埋め合うことができる。例えば沖縄の人と丸の内の人だって、埋め合えるものがあるんじゃないかなと思って。そういう感じで取り組みましたね。
福田:やっぱり水代さんは、「なかった需要」をつくる名人なのかもしれませんね。
水代:そう言っていただけるとありがたいんですけど。
福田:絶対にそうですよ。機能はあったとしても、何も動かなければたぶんそのままでしょう。それを水代さんが結び付けることによって「ビール1杯タダ」っていう状態をつくるということは、そこから何かが、確実に動き出すじゃないですか。