「分かっている未来」を伝えたい
福田:科学のジャンルでは、数年前はアジェンダにも挙がっていなかった解決策が急に見つかって、バズワードになるものがありますよね。先程のヘリウム3とか。ゲノム編集なんかも、あれで農業の効率が一変したわけですよね。そういうふうに、「人類は、昨日の連続で明日が来るわけではない」ということを体感させてくれるのが奥先生のご著書だなぁ、と。 是非、みなさんにも読んでいただきたいと思うんですけども、先生ご自身は、どういうきっかけで書こうと思われたのですか。
奥:『Die革命~医療完成時代の生き方』(大和書房)を書いた時には、「こんなテクノロジーが世の中を変えるよ」と紹介したい、ということですね。おっしゃるように急に変わることもあるんですけど、大体はもっと以前にその技術が発明されていたり、臨床的に使えるかどうかを調べている人がいたり、長いプロセスがあるんです。蝉の一生のような感じで、地上に出てくるまでの長い時がある。でもいまの世の中は、地下にいる蝉の情報ってじつは公開されているんですよ。なのでこの本も、すべてGoogleで調べて書いています。
福田:公開情報であると。
奥:そうです。すべて公開情報を紡いで「僕はこう思います」と。少なくとも秘密情報は一切なくて、皆さんもなんなら同じ本を書こうと思えば書けるわけです。
福田:いやいや無理です。
奥:でも、蝉のように地下にまだ潜っていただけで、ゲノム編集技術や遺伝子修復技術も、もう全部あるんですよ。もともとあって、だけどそれがいつタケノコの穂先を見せるかという話は、誰かが整理したほうがいいかなと思ったんですね。それでいつごろそれが出るのか、ということを科学的に、ある程度分かっていることを書いたということなんですよね。
福田:なるほど。
奥:そして、『Die革命』の続編ともいえる『未来の医療年表 10年後の病気と健康のこと』 (講談社現代新書) の本のきっかけには『未来の年表 人口減少日本でこれから起きること』 (河合雅司著/講談社現代新書)という本があるんです。著者でジャーナリストの河合さんが人口動態調査を基に「この人口動態調査のデータから読むと、2020年は絶対にこうなっている」という、有識者から見たファクトの本なんですね。ファクトを整理して書いている本ですが、それがベストセラーになりました。私の本も同じことで、われわれから見えている医療におけるファクトです。2035年に起こると予測したものは2033年になったりする可能性はありますが、そういうブレしかなくて、「ファクトが起きない」なんてことはもうない。だから未来のことでありながら、現実のこととして書きました。
福田:分かっている未来なんですね。
奥:はい。そして「分かっている未来においてどうするのか」が(次の本の)『人は死ねない 超長寿時代に向けた20の視点』(晶文社)のテーマです。分かっている未来ぐらいは理解しておこうよ、と。そうやって未来がどうなるかを理解すると、いまどうなっているかも理解しやすくなる。そうやっていま自分たちが置かれている現実を、それぞれの世代で理解する。そうすると次の問題として、「医療がすごく進化しているから、もしかしたら生きちゃう時間が長いことあるんじゃないの?」「じゃあその時間どうするの?」ということがある。それは個人として決めなければいけないし、国家としてもどうするのかを決めなきゃいけない。 なので、後半に20個ほどSF的ストーリーを作ったんですね。「こういう時にはこうなります。さてあなたはどう思いますか?」みたいな。そういった具体的なことを考えることよって、自分自身はどう生きて行けばいいかを考える機会を提案しました。
福田:そこで、先程の「ありのまま生きてください」につながるわけですね。
奥:ええ。そういうことが分かっていただけるといいなと。「ありのままでいんだ」「やりたいことをやっていいんだ」と。とくに「やりたいことをやっていい」というのが大切で、そのために我慢しなきゃいけないことって、じつはそんなにないと思うんです。例えば「老後お金が必要だ」問題も、人間って生きていくのに本当にかかるコストって、そう高くないと私は思いますし。致命的な病気に関しては、これからも医療保険が面倒を見てくれると思うし、そう思うと本当に「たくさんお金を用意しなければ死ねない」みたいな話って、本当なの?と。むしろそうじゃないと思っていて、「人は死ねない」という事実を裏返すと、そこはあまり難しく考えなくてもどうせなるようになるし、だったらやりたいことをやりましょう、ということでもあります。
福田:うーん面白い。ファクトに裏付けてもらえると、そこは勇気を持てますね。