感情消費をネットだけで広げるのは難しい
福田:TBSやフジテレビなどのテレビ・プラットフォームは半世紀以上ありますけど、デジタル・プラットフォームの場合、この10年の歴史見ても、mixiは会社としてはあるものの、もうコミュニティーサービスとしては機能していないし、GREE、モバゲーもゲームプラットフォームとしては、ガラケーやiモードとともに無くなっています。今はLINEとFacebookの時代だっていうんですけど、先日、座談会で会った女子中高生は「LINE?もう入れてない」って。そういう子が既に6人のうち1人いるんですよ。
座談会で「LINEはみんなで集まるときの連絡手段として使うだけで、基本インスタメッセでよね」って言ってました。そうそう、面白いこと聞いたんですよ。インスタのメッセージって使われます?
柳瀬:使わないですね。もっぱらメッセンジャーと、まだメール使ってます(笑)
福田:インスタのメッセージは、送り手が相手に届いた自分のメッセージを後から消すことができるんです。それが出来るメッセンジャーって、インスタだけなんですね。フォトジェニックなものはきれいに残せて、日常の他愛ないことははインスタライブで24時間後に消える。だから、インスタがいいと。 スナップチャットは日本では流行らなかったから、彼らのワードローブからはとっくに消えてます。SNOWもちょっと微妙だねって。これが中高生の最前線なのかわかりませんけど、とにかく終わりの始まりが絶対来るわけです。
一方、改めてテレビメディアのことを考えてしまいました。ネット時代の今でもむちゃくちゃポテンシャルがあるんじゃないですか。テレビ広告宣伝トップ100を見ると、メルカリとかゲーム会社とかIT企業がいっぱい入っているじゃないですか。なんでデジタルに精通した会社が広告費をデジタルマーケティングよりテレビメディアに払っているのか。それだけ効くんですよ。
やっぱり今でもテレビで売れば、売り場面積増えて消費者に届く。認知から販売までいけちゃうと。
実は、ラジオにもその力があるんですよね。POLAアネックスで西畠清順の展覧会をやったときに、過去最高の人数集まったのは、AMラジオとTwitterのおかげなんです。宣伝費があまりなかったこともあって、いろいろ考えたんです。AMラジオで一番効果があったのが、TBSの安住さんの生放送。電話でインタビューしてもらったら、それまで1日400人だったら来場者数が1000人以上も来るようになったんです。
柳瀬:あの日曜の安住さんの番組に1回出ただけで、確実にお客さんがきたわけですね。
福田:そうなんです。共鳴、共感してくれるリスナーが多いのと、ラジオは目に見えないからみんなのイマジネーションが広がるんですね。そういう意味じゃ、多少体験に近い。最適化されたデジタル広告が0.7秒出てくるより、じっくり話を聞いて「西畠さんってこういう人なんだ、面白いかもしれない、銀座で植物博覧会をやってるのか」という情報がきっちり魅力あるものとして伝わるAMラジオってすごいなと。みのもんたさんは、見ることができない2万円のネックレスをラジオで売るわけですね。「みのさんが言うなら間違いないわ」ということでたった2分間で1万個売れる。デジタルマーケティングって何だろうって、考え直すにはこのあたりの心理を分析してみる必要がありますね。
ネスレとかビズリーチとか自社で非常に熱心にデジタルマーケティングの研究をやっていて、成果を出している企業にラジオやチラシの効果についてどう考えられるか討議してみたいと思っているんですよね。
柳瀬:ネスレもってオフィスグリコもそうですが、商品を物理的にオフィス=お客さんのところにやってくるのはやはり強い。デジタル経験とリアルがセットになったとき、人々は具体的に行動し、消費する。アマゾンによる購買も、リアル店舗がショーウインドウになっているからこそ、伸びている側面、ありますよね。
福田:ショーウインドーになっている。そうすると、「トイザらス」が破産申請した結果、Amazonのおもちゃの売り上げが減ったら面白いですね。
柳瀬:人間の消費って、理性でするものと、感情でするものの、2種類があります。プロカメラマンが新しいカメラを買うときは、「必要だ」という理性的な消費だけど、カメラが好きな一般消費者が買うときは「ほしい!」という感情の消費ですよね。同じカメラを購入するにしろ、根っこのニーズが違ったりする。そして、日用雑貨や食品や必需品などを除くと、多くの商品は感情消費。ただ、この感情消費、インターネットだけで広げるには限界があったりする。