パン屋はエリアの最強コンテンツ
柳瀬:今、リアル店舗はどんどんなくなっている。じゃ、リアル体験どうするの? ってことだと思うんですよ。従来とビジネスモデルが全然違う、例えば市場だったり、それこそビッグサイトでやるような消費フェスみたいなものが、案外もう一度必要になってくるんじゃないですか。
福田:「大人の塗り絵」が爆発的にはやったとき、コスメサイトの多くがアフィリエーションして儲かったってありましたけど、本を本屋で売らないっていうのも、一つのエクスペリエンスになっていた可能性がありますね。例えばコスメの会社だったら、もちろんマツキヨに扱ってもらうのもいいかもしれないけども、「こういう商品ありますよ」っていうポップアップショップをAmazonの化粧品コーナーとかいろんな所と提携して無数につくるのもありかもしれない。何かインセンティブを付けてやる。
柳瀬:たとえば出版業界。Amazonがインターネット通販をスタートして20年弱。日本では、町の書店がどんどんつぶれています。たとえば、東横線の急行が停まり、乗客数が相当いるはずの綱島駅でも、3軒あった本屋が全部なくなっちゃった。山手線の目白駅でも、老舗書店がなくなり、駅の近辺に本屋がなくなりました。
その一方で新しい本屋さんの業態がここ数年現れています。
たとえば、日暮里には、「パン屋の本屋」さんがあります。大手スーパーの敷地の一角にシックなデザインのパン屋さんと本屋さんがセットで展開されている。日暮里って、ちょっと地味なイメージがありますが、山手線と京浜東北線沿線で実はとても便利。上野も東京もすぐだし、舎人ライナーもあるし、京成スカイライナー使えば日暮里から成田まで35分で行っちゃう。山手線の向こう側は人気の谷根千=谷中・根津・千駄木。開成高校もある。実は、なかなかのアップタウン。駅前に高層マンションが建ち、新住民も増えている。ところが本屋さんが少ない。
福田:そういう地の利をちゃんと研究してるのが凄い。
柳瀬:ただ、新しく本屋さんを出す、だけだったらおそらくうまくいかない。アマゾンでいいじゃん、となってしまいますからね。そこで「パン屋の本屋」さんです。パン屋さんって、その地域その地域にとって最強のコンテンツなんですね。どんな寂れた町でも、パン屋さんはたいがい生き残っています。というのも、パンは主食でみんなが食べる。しかも、戦後、日本の学校給食はパンと牛乳になったので、いまのご老人は若い人以上にパンが好きだったりします。学校給食でごはんが出るようになったのはずいぶんあと。あとはソフト麺でしたよね。
福田:大阪だから、たまにうどんが出た。
柳瀬:ぶよぶよのソフト麺をミートソースで食べたり。あと、あん掛けとか。とにかく、パンのおいしさは焼きたてに尽きる。遠くの有名パン屋さんより、ご近所のパン屋の何てことない焼きたてパンのほうがおいしい。だから、パン屋さんって、あらゆる「ご近所」で成立する。コンビニエンスストアがいくら林立して、出来合いのパンが安く売られていようと。パン屋さんには周辺住民が毎日毎日訪れる。そこに「たまたま寄る存在」「わざわざ寄る存在」の本屋さんをセットにした。すると、パン屋さんに寄る人たちが必然的に本屋さんにも寄るようになる。
福田:すごいですね。ある程度の広さはあるんですか。
柳瀬:すごくこじんまりとしています。でも、店長さんのセンスがとてもよくって、子供の多い地域の本の需要を満たしながら、趣味性の高い人文系の本好きのラインナップも揃えている。
(後篇へ続く)