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ネットの原点は「レスポンスの連鎖」

ビジネスはロック。だから「バンドやろうぜ!」 Talked.jp

福田:『ポンプ』というのは、写真もテキストもイラストも、全部投稿という画期的な雑誌でしたよね。

橘川:そう。それで今見るとすごいけど、投稿者の住所も、全部書いてあるんです。

福田:すごい! 個人情報の固まりですね。「2ちゃんねる」的というか、まさに今のSNSの原型になっている。

橘川:学校の先生の話だとか通信簿だとか友達の話とか。今のネットのコンテンツが、この時すでに全部入っていたんです。で、投稿記事には創刊号からずっと、全部に番号をつけていました。なぜかというと、この「何番」という原稿に対して、読者はレスポンスが出せるしくみなんです。「◯月号のこれに対して、俺はこう思う!」とかね。

福田:これはもう、ネットの双方向と同じですね。

橘川:当時はネットも何もない時代だから、レスポンスも郵便を通じてやるしかないわけなので、3カ月とかかかるわけですよ。それが当時は画期的で、自分の番号に対して3カ月後に他人の意見を見ることができたという。

僕はこの『ポンプ』の編集を通じて、「ネットワーク」という概念を理解したんです。

福田:というのは?

橘川:当時は金がないから、僕の世田谷の自宅がずっと、『ロッキング・オン』の編集部だったんですね。そうすると70年代当時は、家出少女とかがしょっちゅう来るわけ。

福田:編集部と思って来るんですよね。

橘川:そう。編集部の住所として書いてあるから、それを見て来るわけ。で、ある時警察官とお母さんが訪ねてきて、「うちの娘が家出をしている。こちらにお伺いしていないですか」と。書き置きも何もなかったけども、「机の上に『ロッキング・オン』が1冊置いてあったんです」って。

福田:それぐらいしか、手掛かりがなかったんでしょうね。

橘川:そういうこともあって、『ロッキング・オン』の認知が高まると同時に、バックナンバーの注文が来るんですよね。それでバックナンバーを送る時に、手紙を入れていたんです。「僕は、今度は全面的な投稿雑誌を作りたい」と。それでまだ創刊する前に、すでに3冊分の投稿を集めることができた。

福田:それは『ポンプ』の準備原稿であると同時に、『ロッキング・オン』のお客さんの読者カードでもあったんですね。『ロッキング・オン』の原石みたいなものが、もうそこで入っていた。

橘川:そう。だから『ポンプ』のベースは、ロックファンだったんです。例えば「これは白紙のページです。みんなの広場です。好きにしゃべってください」っていうやり方では、普通の人は発信できないんですね。それができたのは、渋谷ぐらいなもので。

福田:何もないところで「好きなことしゃべって」というのは、たしかに難しい。

橘川:でも、目の前にテキストがあって、「これについてしゃべってください」といえば、それはみんなできるわけ。参加型メディアの本質は、オリジナルではなく、レスポンスなんです。

福田:枠組みがあれば参加できるし、レスポンスもできる。なるほど。

橘川:つまり、レスポンスの連鎖というものが、ネットの原点なんです。白紙の紙にオリジナルが書ける人は一握りの天才だけ。で、そういう人は本を書けばいいのであってね。

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