「ライフシフト鬱」にならないために
福田:中国人は、留学したら皆母国に戻って、経済的な好影響を与えてるじゃないですか。でも日本人って、優秀な人材を留学させて送り込んでも、あんまり母国に帰ってこないですよね。アニメーターとかでも、ハリウッドに行って帰ってこない、みたいな。でも坂野さんみたいにアメリカで面白いエッセンス吸っても、また網走に帰るところが面白くて。一見、「なんだかすごい人」って言われているかもしれないですけど、でも、効率っていう観点からいうと、決してそうじゃないんですよね。
坂野:ほんと、そうですよ。レンガを積んで積んで積んで積んで…みたいな。
福田:でも、物事を選択する時の基準がはっきりされてて、今日伺って初めて分かったんですけども、そういう行動原理の明確な指針がおありになるんですよ。皆がマネできるかどうかは別にしてね。でも、それが出来たらきっと読者の皆さんも見たことのない景色が見れるでしょうね。
坂野:そうなんですよ。だから、やらない理由はないんですよね。
福田:やらない理由もないし、坂野さんの概念がやっぱり新しい。「安心安定第一」で生きてる人には、坂野さんが何をおっしゃってるのか全然分かんないかもしれないですけど(笑)
坂野:「ぜんぶ今!」「身体だけ」っていう方が、よっぽど安心安定ですよ(笑) だって、「今ここ」って、ほんとに今ここにあるじゃないですか。
福田:坂野さんは空間認識が高いから、その安心の感覚が深いんだと思います。でもさっきの時間軸に合わせて安定を考えると、「ライフシフトに備えなきゃ」「100年生きて、稼ぎ続けなければ」って、鬱になっちゃう人が続出しちゃうと思う。僕は「空間」よりも「時間」の方に身を置き過ぎちゃっていると、「ライフシフト鬱が増える」って未来を読んでいます。だけど、時間は空間の対立じゃなくて、空間の中に時間は入っていると思うから、坂野さんがその例を今日はすごくたくさんお話して下さった気がします。 暮らし、生活、空間認識。だから、音楽やって宮大工やって建築家も…っていうプロフィールだけお聞きすると、「この人むちゃくちゃだな」って思っちゃう人が多いかもしれませんけど、お話を聞くとものすごく一貫した合理性あるキャリアですよね。今、名刺に肩書きはどう付けているんですか。
坂野:一応、建築家って書いてあります。
福田:建築家。それは商売上分かりやすいだけであって、僕が思うのは、坂野さんは「建物を通じて、人間の生き方を提案してる人」。
坂野:そうですね。自分自身が要は「そういうふうに生きたい」っていう感じなんですよね。僕ほんとに、「人に何かを教えたい」とか、思ってないんですよ。そんなこと出来ると思ってないから、そもそも。
福田:日本的な言い方すると、それを謙虚と僕は思うんですけど、そう捉えられないんでしょうね。何て傲慢なヤツだっていうふうにね。日本だと。
坂野:そうそう。「自分のことばっかり」みたいな(笑)
福田:だけど、自分の中に強力な他者がいる。
坂野:そうですね。だから、ほんと自分に興味持って、自分に一生懸命になる!! 自分に出来ることって、それだけじゃないですか。最期には死んでなくなっちゃうわけだから。それでも面白いことって、今まで短い人生だけど生きてきてあるし、その可能性ってありだよ、っていう感じがあるんですよね。
福田:そこにもっと賭けてみたら、ってことでしょうね。