「バズ」と「圧」の違い
幅:そして、その「深く刺さって抜けないもの」っていうのは、やっぱり「フロー型」よりは「ストック型」の、紙の本みたいなものが変容しやすいのかなと。人間の感性って、そんなにいっぱいの量が刺さるものじゃない。でも、それこそ今日お話に出た何本か。ガルシア・マルケスとか、安部公房とか。ああいうものが結局、自分の中に何かを形作るというか。もっと言うなら道具やテクノロジーに人間が「使われて終わる」のではなくて、主体として人が何かを生み出そうとする時に、欠かせないものじゃないのかなぁ…と思うんですよね。
福田:絶対そうです。僕、2019年限定で「AIサロン」と題した講演会の場を主催したんですね。月に1回、有識者の方にキーノーツスピーカーとして登壇していただくんですけども、初回は茂木健一郎さんにお願いしました。要は、ビジネスマン向けに、AIをどういうふうに取り入れたらいいか、ということで。
「ヒトがAIをつかいこなす。AIがヒトを自由にする」という主旨で、AIをビジネスで考えた時、「前提を与えるのはあくまでも人間だよ」ということなんですね。AIはその前提があって初めて、ディープラーニングして勝手に考えますよっていうことなんですけど。でも今年のはじめの頃は、その組み立てを企業がわかっていないと思ったんです。たとえば、前提を「コスト削減」と決めたら一番わかりやすい。「コールセンターでAIを使ったら、15%コストが安くなりました」「運輸会社でロジスティックスにAIを使ったら安くなりました」とか。そういう実際的な話は前半でして、後半にコンセプターの話をしてもらおうと茂木さんに話してもらったら、もうむちゃくちゃ面白かったんです。例えば「仮想通貨を作った人って、ホントにいるかいないかわかんないんですよ!」とか「AIもすごい発表を匿名でやっちゃったりして、みんな楽しんじゃってるんですよ!」とか。じつは、AIの最前線っていうのは、アナーキーでパンクであるという事実を知ってください、という話で。で、そこで日本人がどう参入していくのか。方法はあるかもしれないけど、日本人にはそういう「圧」がないから、難しいでしょうねぇ?って(笑)。…これってね、わからない人には、茂木さんが何を話してるのか、さっぱりわかんないんですよ。でも、感覚値がある人だとわかるんですよね。「AI業界には、圧がある人間でないと入れませんよ。…っていう気分、わかってもらえます?」っていうのに、1時間使って話していただくんです(笑)
幅:面白いですね。「圧ってなんだ?」みたいな(笑)
福田:人間が思う、最先端の人の「知の圧」っていうのは半分ジョークで、半分本気で、そういうのをやってる連中が今の世の中のAIを動かしているのを、「アメリカの学術マーケットを知ってるから、僕はたまたま知っている!」と茂木さんが熱く語られたわけですけど、会場内で腑に落ちた人がめっちゃ少ない印象だったんですよ(笑)
幅:(笑)。さっきの、ブランクーシ好きのデザイナーの話でいうと、「ブランクーシを語る」というところの曲線に関しては、きっと圧がある感じですよね。
福田:圧があるんですよね。今の話聞いて、「圧だな」っていう。
幅:圧でしょう。どうしてもこれは避けて通れないなとか…。それは自分の中での話なんですけれど、でもやっぱり本っていうのは、書いた人が1人、読む人も1人だから、「one on one」にならざるを得ない。1対1の精神の受け渡しみたいな時の、書き手の圧というものはすごいので。言霊って本当に絞り出しているものなので、そういう圧はもらい受けやすいですよね。だから、なんとなくTwitterとかを見ていても、「バズ」と「圧」はやっぱり違うなって。
福田:あ、面白い!「バズと圧は違う」。そのフレーズ、いただきました!(笑)
幅:でもホント、メディアの形態が違うと思っていても、やっぱり圧っていうのは、その人の熱量で数値では測れないものなんですよね。何か、すごくインテンシティの高い、すーっといろんな人の中に入ってくるかもしれない、ちょっと不思議なもの。僕は今の茂木さんのお話を直接聞いていないのでなんとも言えないんですけど、そういうことなのかなぁという気はします。
福田:すごかったですよ(笑)。ビジネスマンでも、理路整然として言ってることも正しいなっていう人よりも、わけもわからないパッションがある人が、社会的に成功していたりするじゃないですか。理屈じゃないよなぁ…と思って(笑)
幅:逆に、「わからなさの効用」みたいなところですよね。