ネットから「発想の種」は生まれない
福田:SNS時代だからこそ、ジャケ買いとかじゃない本の買い方、選び方って大事ですよね。
幅:そうですね。1回買ったら何度でも、一生読める本が必要ですね。以前、お話した、みすず書房が出したハンナ・アーレント(ドイツの哲学者)の『全体主義の起源』の新版も、あんなに難解で全3巻もあるのにロングセラーのヒットになっています。
福田:覚えています。ハンナ・アーレントの本を読む「読書会」も大人気と幅さんから伺って、すごいなと思いました。
幅:でもああいう本って、二度と同じようには読めないですよね。つまり年齢を重ねると、物語の場合は感情移入する相手も変わるし。哲学でも心理学でも、その時に気づくことと、別の時に気づくことってずいぶん違うので。僕、ハイデッガー(※マルティン・ハイデッガー)がすごく好きなんですけど、今読むとまた面白くて。ドイツを中心に哲学はすごい進化しているので、マルクス・ガブリエルの『なぜ世界は存在しないのか』 (講談社選書メチエ) とか、読むと脳がグルグルして気持ちいいですよ。
福田:読んでみます。それは読んでないなぁ。
幅:あのあたり、やっぱりいいですよね。その世界に止まっていないというか、常にアップデイティングしているし。実際今は、言葉でくくれないアートのようなものに対して、注目が多く集まっていますしね。山口周さんの『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?経営における「アート」と「サイエンス」』(光文社新書) みたいな新書が売れたりとか。僕、その文脈で言うと、やっぱり哲学ももう一度見直される時期がくるんじゃないかと思っていて。
福田:そうですね。デザイン経営って今もまだ流行っているのかもしれませんけど、やっぱりデザインって、クライアントがあって、ゴールがあって、それに向かってやっていくものですよね。でもアートとかアーティなもの、哲学っていうのは自由演技というか、体幹も整えずにやっていく話なので、ちょっとレベル、ステージが違いますよね。
幅:うん。違いますよね。
福田:だから僕は、これからはアーティな経営が大事じゃないかと思うんです。ソニー創業者の盛田昭夫さんとか、スティーブ・ジョブズとか、マーケティングリサーチをしないアート経営だと思うんですよね。
幅:たしかに。でもホントに、李禹煥のエッセイとかは、何よりも勉強になりますもんね。あと、ペーター・ツムトアのエッセイ『建築を考える』(みすず書房) とか。ああいう本が、僕にとっては自分の中で噛み砕いて肉迫させて、また別のプロジェクトを考える時にすごくいい発想の種になるんですよね。
福田:やっぱり、引き出しとか発想力とかアイディアは、やっぱり本が原材料なんですよね。
幅:完全にそうです。やっぱりネットを見て思いつくことってあんまりない。
福田:何にもないですね。僕も芸能界のことばっかりですよ、聞かれるの(笑)。改めて今日お話をして、挙げて下さった本の、まだ読んでいないものを読んでみたいと思いました。あまり美しくまとめられませんけど、幅さんみたいに「本というメディアが生きていく上で絶対必要だ」って思う媒介者が、こうやって日本に残っていてくれてホントに良かったな、って思います。本屋さんに行きたくなりました。
幅:ありがとうございます。業界的に厳しいだの何だの言われますけども、なるべく楽しそうに健やかに生きていきたいとは思っています(笑)
福田:それが幅さんの「圧」ということですね(笑)。今日はありがとうございました。
幅:本当にありがとうございました。今度ゆっくり食事しながら、また本のお話をしましょう。
福田:その日を楽しみにしています!
(了)
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