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本は「遅効性」のメディア

読書でしか、得られない価値  Talked.jp

福田:幅さんがこれから、いろいろな場作りに関わっていかれるその先に、「こんなふうなものをできたらいいな」って思うもの。企業から頼まれるのではなくて、ご自身の「こういうことをやろう」っていう構想で、お聞かせいただけますか。

幅:そうですね。やっぱり、子どもの本のプロジェクトを、今相当本気でやっていているので、そこでしょうか。子どもがどんどん本から離れている、且つ時間の奪い合いが激しいから。スマホもあるし、子どもも忙しい時代といいますか。

福田:子供も忙しい(笑)。それ、なんかちょっと矛盾しますよね。

幅:ホントですよ。君たちは暇なことがアイデンティティだろうと思うんですけど。暇をつぶすことがアイデンティティだったはずなのに、なぜか忙しくなっちゃった。でも、あの子たちにどうやって本を伝えるのかを、やっぱりちょっとやっていかないといけないなぁと思っています。

福田:社会的使命があると。

幅:ありますね。そのためには、ちょっとインタラクティブというか、映像とか、いろいろそういうのを使っています。城崎文芸館KINOBUN(*幅さんが全面監修を手掛けた、志賀直哉をはじめとする、城崎ゆかりの文学者の足跡を紹介する資料館)では、浮遊している部首に人が近づいていくと、城崎にまつわる文学のテキストが現れる仕掛けとか…。

福田:面白い! ハイブローだな~(笑)

幅:いえいえ。「読む」っていう行為って、やっぱり数段登らないと「読む」ってならないじゃないですか。「よし、読むぞ」と思って手に取ってパラッとめくる。で、そこにまで至らない子ども向けに興味をもってもらおう、と。

福田:NHK教育の『にほんごであそぼ』的な、あれを施設にしたような感じですね。いいですね。面白いクリエイティブでセンスがあると、「なんだろう?これ」ってなりますしね。

幅:そうですね。本が好きな人は読み続けるからいいんですけど、問題はそうじゃない人ですよね。本からずいぶん距離も時間も離れちゃっている人に「読め読め」と言うよりは、面白い見せ方をしていかないとと思って。「短いアフォリズムが面白い」とか「名言くらいだったら聞いてくれるかもしれない」とか。そういういろんなアプローチを使って、もう一度本を読んでもらえるような工夫をいろんな所でやりたいと思っています。

福田:昔ほど本屋に行ってわくわくしなくなってきたのは、置かれている本が流行りの実用書ばかりだからでしょうかね。ダイエット本とかお金儲けの本とか…。

幅:本来、本は「即効性」よりは「遅効性」の道具なんですよね。だから、いつ芽が出るかわからない種まき的な行為が読書であると僕は思っているんですけれど、やっぱりそのへんがちょっと違いますよね。いろいろとシステムの問題もあるんですよ。海外って、雑誌と新聞が同じディストリビューションで、本だけ別なんですね。でも日本は新聞だけ別で、雑誌と本が一緒じゃないですか。だから日本の流通システムって、雑誌を回すように形作られていて…。

福田:なるほど~。だからポピュリズムになりそうになっちゃうんですね、どうしても。

幅:本来はもっとゆっくり回していくのが本の流通で、本作りだったんですよね、産業としての。それが雑誌のペースに本も加えて…みたいな感じになっちゃった構造の問題ですね。

福田:構造問題。

幅:それは間違いなくありますね。今年、知り合いが中目黒に自然派ワインのレストランとワインショップをオープンしたんですけど、そこに本屋も入れたいと言われて。「売れないからやめたほうがいい」って言うのに、どうしてもやりたいって言うから、「じゃあとにかく売れない本、売れない堅い本ばかり置くけどいい?」って聞いたら、「逆にそういうのがいい」って。お店の名前も『書房 石』て言うんですけどね。堅い本しか置かないから(笑)

福田:いいですね~。よ~く、じっくり見ないとダメっていうね。

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