経営者の在り方ってなんだ!?
~投資家の琴線に触れるヒント (後編)
構成:井尾 淳子
撮影:三橋 優美子
日程:2020年2月4日
*この対談は、新型コロナウィルスによる感染危険が起こる前に行われたものです。
家入 一真(写真左)
2003年株式会社paperboy&co.(現GMOペパボ)創業、2008年JASDAQ市場最年少で上場。2011年クラウドファンディングサービス運営の株式会社CAMPFIREを創業、代表取締役に就任。2012年Eコマースプラットフォーム運営のBASE株式会社を設立、共同創業取締役に就任、2019年東証マザーズ上場。その他ベンチャーキャピタル「NOW」代表、オンラインカウンセリングサービス運営の株式会社cotree顧問などを務める。
福田 淳(写真右)
ブランド コンサルタント。1965年、大阪生まれ。日本大学芸術学部卒業。 ソニー・デジタルエンタテインメント創業者。横浜美術大学 客員教授、金沢工業大学大学院 客員教授。ブランディング業務以外にも、女優”のん”などタレントエージェント、北京を拠点としたキャスティング業務をはじめ、国際イベントの誘致、企業向け"AIサロン'を主宰、ロサンゼルスでアートギャラリー運営、森林破壊を防ぐNPO「スピーディ・ランドトラスト」など、活動は多岐にわたっている。自社の所属アーティストとは、日本の芸能界にはなかった「米国型エージェント契約」を導入したことでも話題を呼んだ。
1998年、ソニー・ピクチャーズエンタテインメント社 バイス・プレジデントとして、衛星放送「アニマックス」「AXN」 などの立ち上げに関わる。 NPO法人「タイガーマスク基金」の発起人をはじめ、 文化庁、経済産 業省、総務省などの委員を歴任。2017年、カルティエ提供「チェンジメーカー・ オブ・ザ・イヤー2016」(日経BP)受賞。2012-14年、ワーナー・ブラザース「BEST MARKETER OF THE YEAR」3年連続受賞。
自社の出版部門Speedy Booksより、『パラダイムシフトできてる? ポストコロナ時代へ』をAmazonより上梓。著書に『SNSで儲けようと思ってないですよね~世の中を動かすSNSのバズり方』(小学館)『これでいいのだ14歳。』(講談社)がある。
日経ウェブ「21世紀をよむITキーパーソン51人の1人」選出 (2001年)
NPOアシャンテママ 代表理事、NPO法人ファザリング・ジャパン 監事
“怒り”をもっている人と会いたい
福田:『FACTFULNESS(ファクトフルネス)~10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』というビジネス書がベストセラーになりましたけども、僕は逆に数字やデータだけで社会を図るのって、どうなんだろうと思っています。否定はしませんけども。例えば、みんなが不景気だよなと感じているのに、『ファクトフルネス』では「何を言ってるんですか。ほらほら、景気指標、全部いいでしょう」とある。でも一方で、「えー、でも景気いい感じしねえなぁ」っていう“世の中の気分”はある。あの本にはそこまで踏み込んでほしかったなぁと思ったんですよね。場とか感覚とか。
家入:たしかに。最後は、ファクトじゃないところの人の感覚。
福田:そう、五感っていうかね。僕もかつて大きな企業にいて、面倒くさい上司から稟議で判子をもらう時とか、絶対に朝は行かないんですよ。そういうときの上司はシャープだし、いろんな細かいことをきっと突っ込んで来ると思うわけです。だから秘書の人に、「これから接待に出かけるよ」って聞いた夕方、出かける直前くらいにあえて行って、「ちょっと10分いいですか」とかって言うと、まあまあ通るんで。場を読んでいましたね。いやらしい部下でした(笑)
家入:でも、そういうことですよね。
福田:同じ案件でも、朝と夕方とじゃ上司のテンションが全然違う。だから、当然判断は、上司が疲れている夕方でしょう。出かけのギリギリ。でもそのうち、頭のいい上司にバレたんです。「お前、俺の出かけの時ばっかり来るな」と。「いや~、ちょうどリズムが合うんですかね」みたいなこと言って誤魔化しました(笑)
家入:それが福田さんの、「圧のブランディング」の正体なんじゃないですか(笑)。福田さんのお話を聞いていて思い出したんですけど、「起業したいから相談に乗ってほしい」と、連絡いただくことがとにかく多いんです。
福田:そうでしょうね。
家入:毎日、すごい数の方のそういうご依頼が来るんです。でも本当に、よほど「オッ」と思わない限りは、会うことはあまりないんですよね。みんな資料とか持ってきてくれて、一所懸命プレゼンしてくれますけども、基本的にその事業計画どおりにいくわけはないので。
福田:そうですよね。
家入:基本的に、会社なんて失敗するものだと思っているので。目の前にいるこの起業家が、これが駄目でも、この次のやつが駄目でも、この次の次のやつが駄目でも、それでも打席に立てるかどうかをすごく見ます。それをどう見るかというと、僕はその人の中にある“怒り”みたいなものを、すごく知ろうとするんです。
福田:怒り。わかります。
家入:実際に投資するかしないか、最終的に行き着くのは、その起業家のどこに怒りがあるか。それは原体験だったりするかもしれないし。べつにあなたが今起業しなくても、世界は回っているし、僕もそこまで不便を感じていないし、なんであなたがわざわざそれをやらなきゃいけないんですかっていうことを深ぼりしていくと、「実はこういう経験が自分にはあって」っていうのがそこから出てくる。「それが聞けたらいいかも」っていう感じにはなってきますし。「最近、AI流行っているね」とか、「最近、フィンテックが来ているんで」とかっていうぐらいのものしか出てこないとしたら、たぶん一発目の打席でホームラン狙って三振して、「あぁ、自分はやっぱり起業は向いていませんでした」ってやめちゃうと思うんです。そういう答えしか出てこないと、僕は見送ることが多い。
福田:わかります。うーん、面白い!
家入:なのでその起業家の中に「何があるのか」っていうのは、別になんでもいいんです。社会貢献とかじゃなくても、全然いい。「とにかくカネがほしい」とかでも、僕はいいと思いますし。
福田:そうですね。そこは勘違いされやすいんですけど、昨日、株式会社スマートラウンドの代表・砂川大さんと、起業家の方と三人でお会いした時に起業家の方が、「スタートアップする時に、社会的使命とか接点とか必要ですか?」って質問が出たんです。で、砂川さんは「関係あるけど関係ない」っていう答えだったんです。 つまり、利益って出そうと思って出せるものでもないから、おのずと起業家がもっている社会的使命と合致しないと経済的な結果に結びつかない、というところだと思いましした。「ただ社会的使命だけを表に出されても、ちょっと胡散臭いし、信用できませんね」っていう話だったんです。