『不思議の国"中国"のソーシャルメディア事情』(対談 福島 香織 氏 × 福田 淳 氏) | Talked.jp

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先行きが読めない中国のネット世論

福田:最後に一つだけ質問して終わりにしますけど、最近、ジャスミン革命など、ソーシャルメディアが国を崩壊させたり変えたりっていうことが盛んに起きているじゃないですか? 中国は統制されているとはいえ、インターネットというのはなかなかの形で伝わるわけじゃないですか。こういうのが中国に与える影響って言うのは?

福島:大きいと私は期待していたんですけれども、ときどき、その期待は裏切られた、みたい失望もあって、両方が寄せては引く波のように続いていますね。最初にインターネットが出たときに、初めて中国で世論っていうものが出た、ってみんな喜んだんです。それまで中国の報道機関は宣伝機関なわけで、国民の声がはメディアに反映されない世界だったんですよ。世論不在というか、国の言うことが世論だったわけですよ。ところが、インターネットがあれば、みんな自由に自分たちが発言できる、と。実際、ネットの発言を見ていたら、これが世論だと思えるものが、漠然と出てきたんですね。私は2002年から2008年まで北京にいましたが、2003~2005年ぐらいに、ネット世論が出てきた印象です。で、「ネットによると」とか「ネットの掲示板によると」とか、庶民の声を拾う形で引用し始めたんですね。このパターンは、あれよあれよという間に他の社もやるようになって、結局それはネット世論という形で認識されるまでになったんですけど。
ネット世論が出てきて、「反中国」という矛先が、政府に向かう可能性が出てきた段階で、最初、中国はそれをいかに統制するかを考えたんです。ネットの世論を削除するとか、封じるっていう方法で統制していたんだけども、やがてそれを乗り越えるいろんなツールが出てきた。今、彼らがやっているのは、ネットの世論を自分の都合のいいように誘導することなんですよ。つまり、ネットは匿名性なので、スパイが人海戦術で書き込む、オンラインコメンテーターが世論を作ることもできるわけですよ。まさしく、今やっているのは、巧妙に世論を作ることなんです。見ていたら、ものすごくうまくやっています。気が付いたら、ネット世論も中国にいいように操作されている。国のやっていることには世論の裏付けがあるとか、世論の支持を得てるみたいな雰囲気を作り出すことに、成功し始めたわけです。
その後、例えば、ウェイボーという、Twitterみたいなものができたときに、本来、紙に載せるメディアは統制されるけれども、速報性のあるウェイボーなら統制前に情報をぱっと発信できると、新聞記者たちは興奮したわけですよ、「ウェイボーは神様が与えてくれた僕らの道具だ」って。彼らはこれを報じちゃいけないって言われること自体がつらいわけ。でも、それを言われる前に、すぐぱっと出しちゃえるので、大喜びしたのですが、気が付いたらウェイボーの実名登録制とか、全部コントロールされるわけですよ。

福田:実際のTwitterじゃないですもんね。ウェイボーだからね。

福島:ああ、ウェイボーもコントロールされて何もできないって思ったときに、微信(ウェイシン、WeChat、ウイチャットっていうものができた。WeChatっていうのはPtoPになっていて、要するにネットコントロール、統制ができない。閉じられたものだから、ここだったら自由な発言ができるとかって思ったら、今度はウイチャットも、当局の指示に応じて、情報を出すように言われ、ウイチャットの民主化傾向の強い危ういチャットグループっていうのが、わかるようになっちゃったわけです。そうすると、このグループに入っているやつら全員危ういっていうんで、一網打尽に捕まっちゃうとか、ブラックリストに入っちゃう、みたいなことがあって。「WeChatもそう安全なものではなくなってきました」という感じで、今は次に何が出るのかな、みたいな状況です。

福田:常に新しいオルタナティブ(代替え)が必要なんですね。

福島:新しく表現を助けてくれるものが出るのか、このまま当局の管理が続き、自分たちの本当の世論なのか、中国が誘導して作り上げている世論なのかわからないようになってしまうのか、今はせめぎ合いの中で、先行きは読めません。ただ、それでも、ネットがなかった頃とあった頃で、どちらのほうが情報伝達が広くなっているか、優れているか、表現の自由度が高いかって言うと、当然何も知らなかった頃よりは、統制されながらも知っているという時代のほうが、やっぱり進歩しているわけですよね、間違いなく。そんな中で、結局、Facebook革命とか、Twitter革命みたいなものが、中東で起こりはじめたときに、香港で起きているものも明らかにFacebook革命っていうか、Facebookだけじゃなくて、FireChatみたいな、違うものも出てきて、これは統制しにくいから、わっと広がっている。だから、ネットの広がりとこういう動きとはセットになっているんですけれども、FireChatだって、気が付けばコントロールされるようになる時代が来るのかもしれないし。明日、中国が変わるとは思わないし、雨傘革命の結果、中国の体制崩壊がするとは言えないけれども、こういった動きが多分、寄せては引き、寄せては引き、しているうちに、ネットのすごいとこって双方性なんで、中国当局側も影響は受けるわけですよね。こうやったら世論を誘導できるかな。こうやったら、ここでガス抜きできるかな、みたいなことを試行錯誤しているうちに、いつの間にか中国も、世論や国民の意見に影響されて、自分たちの政治を変えていくというふうになっていくかもしれません。