イチローと大谷選手から学ぶ「客観性」
堤:もう一つ、自分のアップデートについて考える時に影響が大きかったのは、1998年からイチロー選手を間近に取材させていただいたことです。彼から学んだ部分がじつは非常に大きいですね。彼がよく言ったのは、「自分がここにいるとして、もう一人、“斜め上から自分を見ている自分”が欲しいですよね」ということでした。自分を客観視する、ということなんですけれど。例えば野球のベンチに座っている時、ベンチの右上あたりにもう一人の自分がいる。そして彼が打席に立って凡退して戻って来た時のふるまいを見ている、ということ。
その時にどうやって自分を元に戻すか、立て直すか。そのために「ここにもう一人、自分がいるというイメージを常に持っている」と彼が教えてくれたことがあって、これは真似したいなと思ったわけですよ。彼ほどの冷静な客観視は、僕にはなかなかできないですけど。
福田:メジャーリーグの大谷翔平選手はどうなんでしょうね。イチローと同じく、この辺に自分がいる感じはありますか?
堤:大谷選手も素晴らしいと思います。そして、(もう一人の自分がいるという)その感じがありますね。彼はたぶん子どもの頃からそういう感覚を持っていたのではないでしょうか。彼が子ども時代に「自分はこういうことをする」という、自分なりの目標を書いた目標達成シート(マンダラチャート)があるんです。よくメディアでも紹介されています。
その一つに、「ゴミが落ちていたら拾う」というのがある。すると今も本当に、通訳の人とグラウンドでキャッチボールしてベンチに戻る時も、ゴミが落ちていたらさりげなく拾ってポケットに入れているんです。必ずやっていますね。それによって、自分にいいことが寄って来るという彼なりの判断があるからなんですけど、それを自然にやっている。これ見よがしでは全くない。テレビの中継で試合前の様子を映している時、アナウンサーと解説者が練習風景を見ながら話していて、気付かないことがあるんですよ。「あ、今ゴミを拾いましたね」って、そこで言ってくれない。私は、「あ、間違いなく今、ゴミを拾ったな。彼はいつもこうだな」と思って見ているんですけど。
福田:面白い。ジンクスもあるのかもしれませんけど、自分を律する基本的な態度が素晴らしいですよね。スポーツ選手にも、「客観的に物事を観る」という、編集者のまなざしが必要なのかもしれません。
堤:はい。イチロー選手と大谷選手はタイプが違うとは思いますけど、でもどちらも等しく、そういう自分を客観視するような「まなざし」を持っていて、等しく素晴らしいです。イチロー選手は私より17歳下だし、大谷選手は今27歳だから37歳下なんですけども、この人たちにはもう、年齢など超えて尊敬の念を抱きますよね。