編集者の強みは、「質問できる力」
福田:僕はコンセプターの坂井直樹さんが大好きで、もう10年ぐらいのお付き合いになるんですけども。先程の堤さんのお話にもありましたけれど、「後輩のことは先輩だと思っている」というお話を聞いて、一層尊敬しました。日本でサラリーマンをしていると、新卒からだと40年ぐらい同じ会社にいますよね。ずっと同じコミュニティーにいるから麻痺しちゃって、たとえ優秀な人でも、後輩を後輩だと思ってしまうと、そこでアップデートは止まってしまうと思うんですよ。
堤さんがおっしゃったように、僕らはどんどん年をとるんですけども、一方でどんどん若い専門家の人たちが出てくる。そこで大切なのは、「知っている人を知っていればいい」ということですよね。自分は、全部は知らないんですよ。むしろ専門的なことはほとんど知らない。だけどアップデート感というのはそういう感じで、自分を作ろうとしていくこと、といいますか。
堤:編集者も全く同じです。例えば今、レギュラー出演している番組では、私はアフガニスタン情勢についていろいろと語っています。もちろん30年ぐらい国際情勢を見てきたので、一般の方よりは知識はあるからです。でも決して、アフガニスタンの専門家でもタリバンの専門家でもなければ、アラビア語やパシュトー語やダリー語など現地の言葉に堪能でもない。だから自分なりに踏み越えてはいけない、「これ以上知ったかぶりをしてはいけないよ」というラインは絶対にあるんです。
福田:難しいでしょうね。でも仮説は立てるわけですよね。
堤:はい、そうです。仮説を立てられなければ、情報は意味をもたないただのデータになってしまいます。仮説に適合する情報、逆に仮説に反していてその修正を求めてくる情報を取り入れながら、仮説を確認・高度化するのが仕事です。
平たく言えば、私は何についてもシロウトです。一方で専門家、例えばどこかの国の専門家は、それ以外の国との関連性などでは必ずしも強くない場合もあるので、私の強みは、対象が広がれば広がるほど出てくるわけです……自分で強みと言うのはおこがましいんですけども。例えばいま200くらいある世界の主な国や地域について、広く相互の関係を語れと言われたら、そこはちょっと強いんです。でも、アフガニスタン、イラン、サウジアラビア、イスラエル……と、どこでもいいんですが、どこか特定の国について深く掘ってみなさいと言われたら、もちろん専門家には太刀打ちできない。けれどいま挙げた4つの国の関連性を「ここ数年の動きに絡めて述べよ」と言われたら、対応はできる。何ができるのかと言うと、その専門家の人たちに具体的な質問をすることができるということです。
福田:あぁ! なるほど。質問力!
堤:「いま、アフガニスタンとイランの関係は良いのですか、悪いのですか?」「イランの革命防衛隊はアフガンのタリバンに近づいているけれど、でも本来シーア派とスンニ派で関係はあまり良くなかったですよね?」「なぜ、どういう思惑でこの二つの国、あるいは組織が、近づこうとしているのですか」「その背景には何があるんですか」……といったことを、それぞれの専門家に聞くことができる。福田さんと同じで、自分が全部できなくてもいいし全部知っていなくてもいいけれど、少なくとも質問を立てられる、ということなんです。
福田:編集者としての向き合い方で、堤さんは日々解決策を見出しておられるということですね。質問は、単に疑問に思ったことを聞くのではなく、自分が考えた前提に対して捕捉されるのか、全く見当違いなのかを見極めることで読者のイマジネーションを刺激するものなのかもしれませんね。
(後編へ)