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世界の編集は「メニュー作り」から始まる

世界を編集する、ということ~編集者と経営者のアップデート術とは  Talked.jp

福田:インターネット革命以降、デジタルの世界が現実に大きく食い込んできた今の時代に、編集ということ…つまり出版の中の編集だけではなくて、編集者的な視点でDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めて、世の中をよくしていくにはどうすればいいのか。堤さんご自身は、アフターコロナをどういうふうにご覧になっていますか?

堤:そうですね。なかなか難しい質問なんですけども……。おっしゃる「編集者的な視点とか役割って何か」というのは出版の編集作業という狭い部分ではなくて、もっと世界や世の中の動きをアレンジするところにも、編集者のような役割があっていいんじゃないか、というご意見ですよね。言葉を正しい方向へ導く、という役割だけではなく。

福田:はい。「世界を編集する」って言いますかね。だから日本の政治、経済にもそういう編集者的なマインドがあれば、もっと社会はよくなっていくのではないでしょうか?

堤:編集者の役割を、特に雑誌編集者の場合を例にとると、そのマインドは「メニュー(骨子)作り」に集約されているんです。例えば月刊誌を作ることになった時に、「さあ今回のメインディッシュは何にするか」を考えないといけない。まず、表紙の写真は何にするか。私が編集長をやっていた時は「マグナム」という、世界を代表する国際的な写真家のグループの写真を毎号表紙に採用していました。マグナムの担当者さんにあらかじめテーマを投げて、「今月はチベットをやります」「アメリカの大統領選挙でいきます」「世界の水不足問題を特集します」などと伝え、それぞれを象徴する写真を集めて下さいとお願いしてから出向くわけです。そこで何十枚も揃えてもらった写真の中から選びます。
それに沿って、カバーストーリーとなる一番のメインディッシュ(=特集記事)を決めるわけですけど、でもそれだけではまだメニューは完成しません。例えば全132ページの雑誌一冊を埋めるためには、特集の他に今月はどういう記事を入れなければならないかを考えます。「ここの国でも選挙があるし、これはとても大事だから外せない」「今、この国の紛争はこうなっていて、これは日本人でも知っておくべきことだ」といったコンテンツを、重要度に沿ってプライオリティーを付けながら並べていきます。
あとはもちろん雑誌なので連載があり、箸休め的な、少し軽めのコラムがあり、となるわけですけど、軽めのコラムだからといって「なんでもいいよ」ということには絶対にしません。やはりそのひと月の構成の中に、何らかの連関性を持たせたい。つまり雑誌を1カ月分作るということは、フレンチのシェフがフルコースのメニューを「ああでもないこうでもない」と言って入れ替えながら、素材も替えながら、考えることなんです。

福田:そのメニュー作りすべてが、編集者の役割ということですね。でもメニュー作りに完成形というのはないわけなので、しっかり作り込むようなことを日々繰り返しやっていく、作りながら進化させていく、ということですね。

堤:そうですね。そのメニュー作りの基礎となるのが、今回の対談のテーマでもある「普段からどういう情報を仕入れているか」とか「アップデートできている自分でいるか」に関わってきます。例えば私が、私の本のメニューを作ったとしても、それは時々で変わっていくわけですよ。毎月、世界情勢も日本の政治も社会も変わっていくわけだから、変わらざるを得ない。一方で、自分自身がアップデートされることによって、「あ、前の見方からはちょっと違ってきたな」ということも、当然なければいけないですよね。その軌道修正をしながら、それを読者に示すことも含めて「メニュー作りの責任」です。そのためには多くの食材の知識が必要で、調理の方法も知っておかないといけない。時には材料の調達先も。だからシェフというよりはむしろ、レストランの経営者かもしれませんね。「今回は誰にシェフを頼もう」「メインディッシュはこの人に作ってもらおう」というのが、先程の第一特集のメインの書き手であるし、そのあとにくる第二特集は「誰と誰に頼もう」というような。
雑誌を例にしてお話をしましたけれども、福田さんがおっしゃるように、それは政治の政策作りにもあるべきですし、企業経営も同じだと思いますね。

福田:絶対にそうですよね。

堤:経営者でいえば、「今年上半期のメニュー」「第1四半期のメニュー」というように、だんだんブレークダウンしていってメニューを作る部分もあるし、5年先10年先を見据えて、この会社の全体的な未来図のメニューを作るようなこともあるでしょうね。つまり、そういうメニュー作りが編集者の仕事です。

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