「楽しい経験を積んだ人間」だけがヒットを出せる
福田:「持ってる」「持ってない」だけではない部分……。やっぱりみんな、ヒットの秘訣の糸口というか、その尻尾を少しでも見たいんじゃないかと思うんですよね。ただそうは言っても、川添さんの時代、バブル時代もその前の時代も、それぞれ全然、違うわけですよね。で、いまはコロナ時代となるわけですけど、そんな3つくらいの時代を平気でまたいでヒットを出し続けてこられたということは……やっぱり僕は、街を、世界中を、「うろうろするような大先輩だったからこそ」なのかなと思っているんですけども。家にじっとしていたんじゃ、ヒットは生まれないですよね。
川添:それはそうですよね。犬も歩けば棒に当たるじゃないけど。…真面目に言うとね。(カメラに向かって)まだ映っていますか?(笑) ヒットの秘訣は、やっぱりいろんなことに好奇心と興味を持って、徹底してそれをエンジョイすること。自分が楽しいなと思う経験を、とにかくたくさん積むこと。その経験を積んだ人間だけが、ヒットを生むことができるんです。
福田:心に沁みます。すばらしいですね…というのは、それを伺って、自分はまあまあ、いま可能性があるなと思ったからなんですけども(笑)
川添:絶対、そのほうがいいですよ。だって、幸せな人間にしか、幸せを送ることはできませんから。不幸な人間が電波を出しちゃっても、みんな憂鬱になっちゃうでしょう。
福田:本当ですね。でもそれって、日本だとあまり許されないところがあると思うんです。「不満をいわずに我慢しろ」とか「石の上にも3年だ」とか。そう言われると、「そうなのか」と思って、苦しいことも我慢してやりますでしょう。一方で自分が楽しいことやっていても、「おい、遊んでばっかりじゃないか」って褒めてくれないじゃないですか、日本って。僕は以前、ロサンゼルスに本社があるソニー・ピクチャーズエンタテインメント社で新規事業を担当していたんですけども、プレゼンテーションがうまくいくと、外資では上司がものすごく褒めてくれるんですよ。
川添:分かりますよ。海外はそうですよね。「よくやった!」「ここが良かった!」って。
福田:Well done!とか言ってね。日本でそんなこと、上司から言われたことは1回もないですよ。できて当たり前という感じで。かわいくないですよね(笑)やる気をなくすと思うんです。僕は川添さんとそんなにお付き合いは深くないですけども、普段お話をお聞きしていると、後輩が僭越ですけども、人に優しい方だなぁという印象があります。
川添:そうですか。ありがとうございます。
福田:はい。だからその優しさで、若いアーティストたちも心を許してオープンになって、「こんなことやりたい。あんなことやりたい」と、言えたのかなと思いました。それをまた面白がってもらえる。さっきのユーミンの話なんて、僕だったら1回でヒットが出なかったら、急にやる気なくなっちゃいますから(笑)
川添:それは、気が早いですよ(笑)
福田:だけど川添さんは、ユーミンのアルバムを3枚つくってヒットのチャンスを考えられた。アルバムをつくるのだって、大変じゃないですか。
川添:だって、「このアーティストは絶対才能がある!」と思っているんだもの。
福田:あぁ、だから、そこの「最初の見立て」が正しいんですね。そのご自身の見立てについて、ご自身でも信頼があるからなんですね。
川添:そうですね。だから、その見立てができる感性を養うようなライフスタイルで生きること。それが、どんな職種の人にも大切なことではないでしょうか。いつも、時代が変わっても、アンテナを張っていてね。それプラス経験を積むっていうことですよね。あとは「人を楽しませたい」「喜んでもらいたい」というサービス精神ですね。
福田:いや、今日は本当に大事なヒントをいただきました。
川添:これで、なにかお役に立ちそうですか?
福田:すごく良かったと思います。だって、みんなが知っているアーティストのヒットの裏側って、めったに語られないじゃないですか。令和のいまは、べつに出会い系アプリで人と出会っても全然いいんですけども、ネットだけで完結しないことの大切さを改めて感じました。やっぱり、フィジカルに街に出る。かわいい女の子がいたらナンパする。海外に行く。おいしいものを食べる。面白そうと思ったら、やってみる。こういう基本的なことを、みんなあまりやらなくなっている、ということなんだと思いました。僕なんかは、そういうことは大大大好きですけども。個人の生き方、ライフスタイルからハッピーにしていかないと、みんながハッピーになるヒットは生まれない。あとは、7月30日に発売される川添さんのご著書『象の記憶 日本のポップ音楽で世界に衝撃を与えたプロデューサー』(DU BOOKS)をぜひ皆さんも読んでみてください。エンタメ業界目指す人はとくに、です。川添さんという稀代のプロデューサーがどんな方か、どんなにみんなに愛されているのかが分かる1冊なので、ぜひ。川添さん、今日は本当にありがとうございました。
川添:いえいえ。こちらこそ、本の宣伝もしてくださって。ありがとうございました。
福田:すばらしいお話を、ありがとうございました。
(了)
(前編へ)