これからのオフィスは「ストリート」にあるべき
福田:タワマンだけでなく、都市には当然、様々なビルがありますけども、ビルってそもそも「デザインがない」ですよね。ヘリにでも乗らない限り、ビルのデザインなんて誰も見ない。そう考えると三井不動産は面白くて、日比谷でもどこでも、どのビルも全く同じデザインなんですよね。
佐々木:「東京ミッドタウン八重洲」という名前で、八重洲までできましたしね。
福田:ええ。だからそれはブランディングであって、デザインじゃなくていい。僕はビルのデザインなんて、何でもいいと思うんですよ。バブルにさかのぼると、西新宿って一番地上げした場所ですけども、全くもって“街”じゃないですよね。働くためだけの場所で、土日のコミュニティって、おそらく一切ない。土日に「西新宿の高層ビル街で遊ぼうぜ!」という人はいないですよね。でも、歌舞伎町にはコミュニティはあって、コロナ前は外国人ツーリストにもめちゃくちゃ人気でした。だからやはり地べたに近いところで、自分の必要なコミュニティがあるところが=「人間の文化の進化が現れている場所」じゃないかなということを、なんとか証明したいと思って書いたんですよね。
佐々木:この本を拝読して思い出したのが、今一緒に起業しているビジネスパートナーの木野下有市さんの話です。彼はロサンゼルスで7年くらい、Dentsu Entertainment USA社のCEOだったんですが、今回一緒にオフィス選びをしていたときに「LAでは一流の人ほど、低層のところで働く」と。
福田:素晴らしい。
佐々木:「オフィスビルの上階で働くのは、一流じゃない」と聞いて、日本とは全然、概念が逆だなと思って。それと同じですよね?
福田:同じです。ロサンゼルスの街はビバリーヒルズだとかサンタモニカが中心ですが、2005年ぐらいに再開発されて、ダウンタウンにものすごい高層ビルがいっぱい建ったんですよ。よくロサンゼルスのリアリティ番組とかを見ると、ヤシの木がいっぱい立っている先のほうに霞んで、ビル群が出てきますよね。あれ、ダウンタウンなんです。中規模ぐらいの会社のオフィスをまとめて建てたことによるビル群で、すごく流行ったんですけど。でも今やダウンタウンは全部“スキッドロウ”って言われていて、要はホームレス街を指しているわけです。だから非常に危ないエリアになっている。昔も危険なところでしたけど、ビジネス街として流行って、一周回ってまた危険なところになってしまった。だからもう、みんなダウンタウンに行かなくなっちゃったし、たくさんあった一流のいいギャラリーがみんなこの秋、サンタモニカやウエストウッドのほうに移転してきます。それぐらい、ダウンタウンが西新宿化してるわけですよ。 なので「ビルの価値って何?」って言ったときに、「効率的に働けて、効率的に暮らせる」ってことなんでしょうけど、そもそも人間の暮らしって効率的であるわけないですよね? だからその歪みが、コロナで炙り出されたのかなっていう気はしてるんです。
佐々木:ですよね。その意味では、本当のクリエイティブワーカーのための、クリエイティブな働く場所、オフィスを作ることができたら、本当に強いですよね。日本では、ありそうでないじゃないですか。
福田:はい。佐々木さんの新しいオフィスはどちらになったんですか?
佐々木:7階建てのヴィンテージマンションで、原宿です。
福田:いいですね~。
佐々木:この本でも、福田さんも「原宿はいい」って書かれていましたよね。
福田:そうなんですよ。西本将悠希さんという方が運営されている「en one tokyo」(エンワントーキョー)という会社のアートギャラリー「the mass」「common」があるあたり(表参道と明治通りの間で)が、成長すると思ってます。このあたりの活性化はすごいです。そして大きいビルは1つもない 一方で表参道ヒルズやラフォーレの裏側は、昔、おしゃれエリアでしたが、今歩くと結構「リーシング(商業用不動産の賃貸をサポートすること)」だらけになっていますよね。「街の栄枯盛衰」が感じられます。森開発が作るような商業施設って、それまであった一階の店を全部ビルに閉じ込めちゃうんですよ。「1階の広告効果を全部なくすのが商業ビルであり、タワマンである」っていうことだと思います。でもそういう視点って、全然語られてこなかった。